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いっしょに育て隊

第47回
尾辻義和さん(野川で遊ぶまちづくりの会 代表)
調布の田んぼから伝えたいこと(前編)

2018年7月21日 公開

みなさんは調布にある「田んぼの学校」を知っていますか?「野川で遊ぶまちづくりの会」のメンバーが、26年前から続けている活動です。調布の佐須地域に広がる農地には、野川の支流のマセ口川(通称佐須用水)が流れています。かつては一面の田んぼだったというこのあたりに、ごく一部ですが今もなお残る「田んぼ」。地域の親子が参加する「田んぼの学校」校長の尾辻義和さんを訪ねました。

 

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コサイト 田植えからちょうど一週間ですね。苗の緑がとてもキレイです。

 

尾辻 ちゃんと根付いているようだね。ほら、オタマジャクシ。

 

コサイト わ、ホントだ!

 

尾辻 アマガエルのオタマジャクシですね。よく見るとたくさんいるんですよ。他にもゲンゴロウとか。

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田んぼの横に流れる佐須用水。今は野菜畑が広がっていますが、かつては田んぼが一面に広がっていたのだそう。

 

尾辻 この用水の生き物観察が、僕たちの活動の始まりです。国分寺崖線からの湧き水が深大寺にある都立農業高校神代農場の中から湧き出してここまで流れてきています。こうして(取水口の柵をいじりながら)水量を調整しながら水を取り込んでいるんです。

 

コサイト わ〜すごい。小さい田んぼとはいえ、ずっとここに残し続けることができているのも、きれいな水があるからなんですね。尾辻さんがここで田んぼの学校を始めたきっかけは何だったのでしょう。

 

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尾辻 もともとは「野川で遊ぶまちづくりの会」を仲間と立ち上げて、野川周辺や野川につながる用水路などをフィールドに、用水の清掃や生き物観察会などをやっていました。当時は今よりも生き物の種類も豊かだったんですよ。で、そのとき、ここにある田んぼを見て、メンバーの一人が「田んぼをやりたい」とつぶやいた。

 

コサイト でも…どなたかの田んぼだったわけですよね。そう簡単なことではなさそうです。

 

尾辻 そうそう。ところがね、たまたま田んぼの持ち主が僕の知り合いだとわかり、すぐに聞いてみたんです。すると持ち主の家でも、できれば田んぼを残したいと考えていたところだった。農地を貸すことはできないので、田んぼで米作りをお手伝いということになりました。その時(1993年)からここで「援農」という形での米作りを続けています。

 

コサイト 尾辻さんは当時から米作りには詳しかったんですか?

 

尾辻 いや、あまり興味はなかったですね。でも仲間と一緒にやっていく中で興味を持ち、メンバーの入れ替わりなどもあって、いつしか自分が中心となって運営するようになりました。

 

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コサイト 今や「田んぼの学校」は地域の親子に大人気です。いちおう定員は親子20組ですが。

 

尾辻 ほとんどPRはしていないのだけれど、定員をはるかに超える数の応募があります。口コミがほとんどで、あとはうちのHPを見て申し込む人が少し。

 

コサイト 先日は、田植えの様子も見学させていただきましたが、みなさん本当に楽しそうでした。子どもも大人も。

 

尾辻 子どもには土に触れて楽しく遊んでほしいし、親世代には、この活動を通して少しでも環境問題に目を向けてもらえたら、と思っています。

 

 

それは野川から始まった

 

コサイト そもそも野川との出会いは?

 

尾辻 結婚してすぐに暮らし始めた家が野川の近くにありました。それが野川と知り合うきっかけです。

 

コサイト どんなところに魅力を感じたのでしょう。

 

尾辻 感じたのは魅力ではなく、疑問。

 

コサイト ぎ、疑問?

 

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尾辻 僕にとって川といえば、子どもの頃、北海道でたくさん遊んだ川。町中を流れている川は柵もなく、自由に入って遊ぶことができて、とても美しいものでした。ところが当時の野川は柵があって、川に近寄ることもできません。一時は下水が流れこむドブ川となっていました。下水道が整備され、かなりきれいな川になっていましたが、ふるさとの川とは随分違いました。何だこれは、どういうことなんだ、と。

 

コサイト 本当の川じゃない…そんな思いでしょうか。それが「野川で遊ぶまちづくりの会」を始めたきっかけなのですね。

 

川をめぐるさまざまな問題

 

コサイト 現在の野川は、河川敷に降りて子どもたちも自由に遊べる魅力的な風景に変わってきています。地域住民にとっては自慢の川です。

 

尾辻 僕は、野川は特別な川だと思います。はけ(崖線)からの湧き水を集めて流れている川は、全国的にも珍しいんです。

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コサイト ですよね!野川は風景もとても美しいと思います。

 

尾辻 以前は柵があって入れませんでしたが、東京都が川の「親水化」へと大きくかじを切り、野川も今のような形になりました。でもね、実は問題もたくさんあります。

 

コサイト と、言いますと?

 

尾辻 水防の問題です。最近は気候変動の影響もあって、1時間に何十ミリという雨が降ることが増えました。豪雨が降ると、野川の水位が護岸ギリギリのところまで上がるのを知っていますか?

 

コサイト はい、いつもとは様相が一変してすごい量の水が流れているのは何回か見たことがあります。

 

尾辻 野川は1時間あたり50ミリまでの降雨には耐えられる設計になっています。しかし、これからは、1時間あたり75ミリとか100ミリといった豪雨にも対応できるようにしなければなりません。大量の雨が降ると、下水が溢れ野川に流れ込みます。水が溢れないために、少しずつ対策も進められていますが、まだ十分とはいえません。何より抜本的な対策を講じる必要があり、野川を知るほどに課題が山積していることを痛感します。

 

コサイト 野川の恩恵を受けている地域の住民としては、いいところばかり見るのではなく、川の抱える問題にも目を向け、考えていかなくてはなりませんね。

 

 

この取材の後、西日本では豪雨による甚大な被害がありました。川の近くに暮らす私達もまたいつ被災するかわかりません。環境問題に対して、自分のこととして目を向けていかざるを得ないのではないでしょうか。

 

さて、尾辻さんへのインタビューはもう少し続きます。後編では田んぼの学校のことや、子どもたちへの思いなど、美しい田んぼの写真も交えながらお話を伺います。どうぞお楽しみに。(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)

 

撮影協力:Gallery&Cafe Warehouse Garden(柴崎)

執筆者

尾辻義和(おつじ・よしかず) 「野川で遊ぶまちづくりの会」代表。「田んぼの学校」校長。北海道出身。中学生になってから東京で暮らし始める。プログラミング関連の会社へ就職。その後結婚を機に調布に住み始めて48年。他にも地域のさまざまな活動に、積極的に参加している。

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