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いっしょに育て隊

第22回
東京都調布市立第五中学校 校長・田代和正さん 音楽科指導教諭・山崎朋子さん
思春期だからこそ——感性・体力を大事に育てる(後編)

2016年2月12日 公開

15年ほど前は、調布市内でもその名が轟いていたほどの「荒れた学校」だった調布市立第五中学校。田代校長も当時は教頭として中学生たちと向き合い、学校の立て直しに力を注ぎました。とはいえそれは険しい道。

当時の入学式後の保護者会では、校長が「入学式に在校生の態度が悪い」ことを謝罪するほど。制服は乱れ、私語、立ち歩き授業を妨害、喫煙、破壊…次々と問題行動を起こす生徒たち…先生たちは生活指導に明け暮れる毎日でした。

 

 

コサイト 当時、私も五中の噂は聞いていました。

 

田代 実際に問題行動を起こしているのは一部の生徒なのです。それでも、周囲から見ると学校全体が大変そうに見えたのだと思います。

 

コサイト 保護者の皆さんがとても協力的だったとか。

 

田代 そうなんです。「おやじの会」もできて昇降口のペンキ塗りや、校門からの荒れ放題だったアプローチに花の苗を植えたりもしました。みなさん、とても積極的に関わってくださってね。不思議なんですけれど、生徒はもちろん保護者も地域の方たちも、関わった方たちはみんな五中を好きになってくれるんです。

 

コサイト 入学当初は不安だった保護者も、入学すると好きになる?

 

田代 卒業生はしょっちゅう遊びに来ますし、卒業生の保護者も「第◯期の保護者会」として、それこそ15年以上前の保護者がいまだに集まっていたり。

 

コサイト 確かPTAのOBが集まってサークルを作っていますよね。

 

田代 「五中オールウェイズ」というグループです。五中が一番大変だった時代の役員さんを中心に結成されたサークルで、今も五中祭の出店や、美化活動の参加など、折々に力を貸してくださっています。

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▲保護者と一緒に田代校長もペンキ塗りをしたそう。そのときにちょっとしたイタズラを…

 

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▲体育館の壁面に、街のシルエットを。15年ぶりに五中に戻って来て確認したら「まだありました」(田代校長)。

 

学校の情報を開く—みんなで作る学校とは

 

コサイト 応援団がたくさんですね。

 

田代 学校は職員だけで頑張って運営しようとすると視野が狭くなり、どうしても限界があると思います。私は、学校とは「作るもの」だと考えています。生徒、保護者、教員が一緒にね。

 

コサイト そのためには、何が必要でしょう。

 

田代 学校の情報を開くことです。そこには責任が伴いますから簡単なことではありません。責任を全うしなければなりませんから、それなりの覚悟が必要です。情報を閉じてしまえばわかりませんから、ごまかすことだってできる。情報を開くか閉じるか…学校として、その判断は非常に難しい部分もあるのです。それは大変なことなのです。何しろ、学校の問題を地域にさらけ出すわけですから。当時の五中では情報を可能な限りオープンにしました。そして「学校は何をやっているんだ」とお叱りを、それはもう本当にたくさん受けました。

 

コサイト そんな状況になったら八方ふさがりでは?

 

田代 厳しいお叱りを真摯に受け止め、ひたすら「できることをしっかりやっていきたい」と伝え続けました。すると、「それならば手伝うよ」というムードになっていったんです。協力を得て「365日オープンスクール」という取り組みを開始しました。主に保護者の方による授業参観と校内パトロールを目的とした活動です。

 

コサイト いわば「外部の目」がいつも学校内にあるわけですね。

 

田代 毎日のように、校内の問題点が上がってくるわけですよ。当然のこととはいえ、私たち教員も人間ですからその度に傷つきます。それでもやるしかなかった…。

 

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コサイト 先生がたの覚悟を感じます。

 

田代 それから、この時期にあえて職員による「研究活動」を取り入れました。研究により自分たちの学校を振り返り、何が欠けていて何が必要なのかが見えてきます。職員は生活指導だけでも大変だったのに研究もしてとフラフラでしたが、結束も強まりました。

 

***

調布市立第五中学校による研究活動が、「豊かな心を育み、共に生きる力を培う教育活動」(調布市教育委員会指導室発行)という冊子にまとめられています。

そこには当時の子どもたちの実情が綴られています。勉強がわからず授業がつまらないからエスケープする。さらにわからなくなるという悪循環。ストレスから問題行動を起こして先生に注意されるけれど、反発して軌道修正できない。自己肯定ができないから将来への明るい見通しが持てない…など。

***

 

「一生懸命やることがかっこいい」

 

コサイト その頃、ボランティア部の生徒たちがソーラン節で踊る「五中ソーラン」が生まれたのですよね。

 

田代 はい。学校として学習以外の場面で活躍できる場を提供することで、自信をもってもらうという取り組みとして、たとえば校内コンサートのスタッフ、学年劇への参加などもありました。部活動を通しての取り組みが「五中ソーラン」だったのです。

 

コサイト 実は私も、当時の五中ソーランを見せていただいたことがあるのですが、少しとんがった感じの男の子たちもいて、その子たちが全力で踊る姿は本当にかっこ良くて、感動しました!

 

田代 ソーラン節は五中祭で発表しました。部員が真剣に全力で発表することで「一生懸命やることはかっこいい」ということを、多くの生徒たちに伝えられた活動だと思います。その後地域でのボランティア活動でも披露することが増え、「五中は頑張っているじゃないか」という声をいただくようになってきたんです。さらに、少しずつですが問題行動を起こしていた子どもたちも学校での居場所ができ、学習の意欲を持てるようになっていきました。

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小中学校を中心とした「チーム」を作る

 

コサイト 調布市の中学校全体でも、地域の協力を得るための取り組みはあるのでしょうか。

 

田代 学校により、いろいろだと思います。情報をオープンにするという五中の取り組みも、ぜひ参考にしていただけたらと思います。調布市では小学校や中学校を中心とした「学校支援地域本部」を立ち上げることになっています。現在、中学校では五中と八中が行っています。保護者や地域、健全育成委員会といった方たちとともに、学習支援部、環境支援部、行事支援部、渉外支援部という組織を作りました。多様な形で学校に関わっていただくチームです。

 

コサイト いいですね、チーム! 

 

田代 私たち「チーム五中」では、たとえば三年生の進路に向けた面接の練習のときに、地域の方に面接官になってもらうとか。

 

コサイト 地域の理解がさらに深まりそうです。

 

体力・感性を磨くことが大事

 

田代 私は、感性を磨くことこそ学校にとって大切なことだと考えています。感動や喜びをもっと引き出す方向がいい。音楽、美術、スポーツ…それぞれが自分のエネルギーを出す場を学校が意図的に作っていけば、子どもたちは大きく変わって行くでしょう。これまでの教育は荒れないように、と引き締めてきたところがありました。これからはそれを少し緩めて子どもたちにゆだね、彼らが問題を自分たちで解決していけるような学校になったらいいなと。

 

山崎 子どもたちのエネルギーをどう出すかで、学校は変わると思いますよ。

 

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コサイト といいますと?

 

山崎 活動を通した充実感、やって楽しかったという思いが残ってこそ継続しようという思いにつながります。子どもたちの言葉に「◯◯をしている先輩がかっこよかった」というのがあります。上の学年の取り組みに憧れをもち、自分もやってみようという思いが、学校に活気をもたらすのではないでしょうか。

 

コサイト そんな活動を通して体力もつきそうです。

 

田代 子どもの体力低下は切実だと思います。昔の子どもはよく遊んでいたから体力もありました。今は体育系の部活動に入っていなければ、週3時間の体育以外は運動をしていません。体力が低下すれば、勉強にしても仕事にしても頑張ろうという気持ちが持ちづらくなります。

 

コサイト 心と体をたくましく育てることが、子どもの将来にも大きく関係していきそうですね。

 

山崎 五教科の勉強はもちろん大切ですが、中学校は高校進学の予備校ではありません。私は音楽の指導教諭として、子どもたちのエネルギーが、音楽を通して発散されたらいいなと思っています。

 

田代 今年の卒業式も、卒業生の合唱は感動的だと思います。去年もすごく感動したけれど。

 

山崎 今まさに、子どもたちと一緒に卒業式へ向けて準備中です。

 

コサイト 間違いなく感動しそう。保護者のみなさんにはハンカチ持参でとお伝えしなくては。

 

田代 いやいや、厚手のタオルをお願いします(笑)。

 

(取材・編集部 撮影・赤石雅紀) 

 

執筆者

調布市立第五中学校校長・田代和正さん(写真右)と音楽科教諭・山崎朋子さん(写真左)。

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