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いっしょに育て隊

第51回
かんばらけんたさん(車椅子ダンサー)
困ったら「助けて」と言っていい(インタビュー前編)

2021年12月27日 公開

2021年秋。コロナ感染が最も拡大していた時期に重なって開催されたパラリンピック東京大会。観客を入れずに開催された開会式は、少女の成長物語が描かれ多くの人たちの感動を呼びました。ストーリーの中でも重要なシーンに登場したのが、調布市在住の車椅子ダンサー・かんばらけんたさんでした。

 

鍛え抜かれた上半身をしなやかに動かし、逆立ち、横倒しにした車椅子の上で回転するなど、誰もが「唯一無二」と認める力強いパフォーマンスに、多くの人たちが圧倒されたことでしょう。ダンサーを目指したきっかけは…?

先天性の二分脊椎症という重度の障害があり、移動に車椅子を使っているかんばらけんたさん。エンジニアとして働き、奥さまと2人のお子さんと4人、調布市にお住まいです。ダンスを始めたのは2016年のことでした。

 

かんばら テレビニュースでYAMAHAが開発したパフォーマンス専用の車椅子が紹介されているのを見て「乗りたいな」と思いました。その数カ月後に、その車椅子を使うパフォーマーを募集していたので応募したのがダンスを始めたきっかけです。電動アシストで後ろについている帆がスピーカーになっているんです。

 

コサイト (画像を見せてもらい)かっこいいですね!何か、目立つことがやりたかったとか?

 

かんばら いやいやいや!全然そんな考えはありませんよ。ちょっと趣味でダンスをやってみようかな、ぐらいの感じでした。楽しそうだし、自分の体の特徴も生かせそうだなと。小さいときから水泳をしていましたし、陸上競技の短距離やシッティングバレーボールもやっていましたが、どれもパッとしなくて…。あ、僕はめちゃくちゃ負けず嫌いなので(笑)。そんな中、ダンスに出会って体の特徴がばちっと決まるような気がしたんです。

地面が揺れた!7万人の歓声を体で感じた

 

コサイト その後、わりとすぐにリオパラリンピックの閉会式に…

 

かんばら ダンスを初めて半年で出演しているんですよ。無謀ですよ、無謀無謀!(笑)

 

コサイト 確かに(笑)。決まったとき、ご家族の反応は?

 

かんばら 偶然オーディションを受け、その日のうちに合格が決まりました。帰宅して妻に「リオパラに出演できるけど、どうしよう」と伝えたものの、理解が追いついていなかったようです(笑)。

 

コサイト ダンス歴半年でオーディションに一発合格とはすごいことです。

 

かんばら そもそも車椅子でダンスをしていて、さらにリオまでの飛行機に30時間乗ることができて、スケジュールが合う人は、おそらく日本中探しても多くはないと思いますけどね。

 

コサイト でもやっぱり合格するだけの実力はあったのだと思います。

 

かんばら 僕にしかできない技があったからかもしれません。

 

コサイト 2021年、東京で開催されたパラリンピックの開会式にご出演されました!

 

かんばら 5年間いろいろ準備はしてきました。2019年ごろにオーディションがあって、その結果通知の前に東京大会の延期が決まり、合否が先延ばしになりました。決まったのは2020年の年末ごろです。そこから顔合わせや衣装の採寸などが始まりました。感染予防のため、練習も小さいチームで行っていました。

 

コサイト 振り付けもかんばらさんが?

 

かんばら 車椅子ダンスの振り付けができる人がいなかったので、作るところから参加しました。実際に僕の作品を見てもらってそこからダンスのどの部分をどこに使うかとか、他のパフォーマーとの絡みもあるので、ステージの立ち位置を決めるとか。

 

コサイト 無観客での開催でしたが、現場はどんな感じでしたか?

 

かんばら 無観客というのは違う感じかなあ。フィールドにいる選手たちがお客さんみたいな感じ。とても喜んでいただいていたようでした。ただ、リオのときとは違いましたね。リオでは7万人ほどの観客がいて、わーっという歓声で地面が揺れて地震みたいでした。空気も揺れて…僕の産毛も揺れました。

 

コサイト 産毛が揺れる!?すごい経験ですね。コロナの前と今では状況が違いますね。

 

かんばら 東京大会はそもそも中止になるかもしれなかったし、僕自身も開催するのがいいのか悪いのかわからない中で練習していました。感染者数が増えていく中で、やめたほうがいいという意見も理解できるし…。僕のための衣装、僕のためのシーンが出来上がっていても、100%開催するべきだという気持ちは最後まで持てないまま進んでいきました。けれど途中で「オリパラが中止されるなら理解できるが、開催されるならステージに立ちたい」と心に決め、そこからはある程度迷いがない状態で進んでいきました。もちろん感染者数を見るたびに心は揺れました。直前の2週間は自分が感染したら出演できないので、家族とも離れて生活していました。現場での感染予防策も徹底して行われていました。

 

コサイト 実際に大舞台で大役を演じきりました!ご感想は?

 

かんばら …(くやしそうに)失敗したんですよ…。

 

コサイト え?わからなかったですけれど。

 

かんばら 現場にいた人も「わからなかった」と言っていましたけど。あんなに練習してさんざん踊ってきて、失敗したこともなかったのに。いや、失敗というか練習通りにいかなかったというか。

コサイト そうだったんですね。でもきっとそんなことも含めて、貴重な経験でしたね。見ていて、本当に感動しました。

 

かんばら ありがとうございます!調布の街なかを歩いていても声をかけてくださる方がいて嬉しいです。小学校で講演会をしたときに話を聞いてくれた子が声をかけてくれることもありました。

 

困っているときは「助けて」と言おう

 

コサイト 小学校で子どもたちに向けた講演活動もされているんですよね。子どもたちはどんな様子なのでしょう?

 

かんばら 最初は子どもたちも距離があるというか…挨拶しても小さい声でしか挨拶してくれなかったりして。それは初めて会う人という感じに加えて「車椅子の人」という感じもあります。けれど、僕のダンスを見た後はそんな壁は一気になくなります。

 

コサイト 子どもは受け入れるのも早い!

 

かんばら そしてよく見ているんですよ。講演会の感想や絵を後から寄せてもらうことが多いのですが…(実際に子どもたちから届いた絵を見ながら)この足の感じとか、細かいところまで見ているなあって。感想もいいんです。「ぐるぐる回るところがかっこいい」とかね。

 

コサイト いいですね〜

 

かんばら たとえばこんな感想もありました(と読み上げる)。

 

「困っている人がいたら声をかけよう、だけじゃなくて自分が困っていたら助けてと言おうと言っていたところが、自分からも困っていたら助けを求めていいんだよ、と言っているような気がして心に残りました」(小学生の感想から一部抜粋)

 

かんばら こういうのは、これからもずっと伝えていきたいです。「困っている人がいたら助けよう」という話はよくありますけれど。自分が困っていたら声をかけていいんだよ、と。

 

コサイト もしかしたら社会の中に「助けて」と言えない、迷惑をかけてはいけないという呪縛があるのかも?

 

かんばら 相手に気持ちを悟ってもらうのが当たり前、というのはよくないと思います。結果として「◯◯してもらえなかった」と思うのではなく、相手に「すいません、◯◯を手伝って頂いていいですか?」と言えばすむことだったりします。

 

コサイト (子どもたちの感想文を見ながら)他にも素敵な感想がたくさんありますね。

 

かんばら 「かんばらさんのパフォーマンスを、家に帰って姉や家族にじまんしました」とかね。こういうのがあるから、子どもたちの前で踊りたいと思うんです。

▲狛江市立和泉小学校の子どもたちから届いた感想文集を手に

 

インタビュー後編「みんな違うからこそ面白い」へ続きます!

取材会場:カフェaona

撮影:楠聖子

執筆者

かんばらけんたさん 車椅子ダンサー。調布市在住、2児の父。2016年にはリオパラリンピックの閉会式に、2021年秋に開催された東京パラリンピックでは開会式に出演。調布市内の小学校でも講演会を行ったことも。

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