布田の住宅街にある「ぷくぷく・ポレポレの家」は、今はめずらしくなった縁側とこじんまりとした庭のある古い民家。地域のママたちが赤ちゃんを連れてやってきます。
「ぷくぷく・ポレポレの家」ではスマホを見なくなる
コサイト 初めて来ましたけれど、なぜかとても懐かしい気持ちになりました。ゆったりとした時間が流れているような気がします。
鈴木 実家に来ているような感じでしょう?おかげで、誰もが着飾ることなく、素直に自分を出せる場になっているようです。そうそう、ここに来ているママたちはスマホをいじることがないんですよ。
コサイト それは…?
鈴木 人と素直な気持ちで関わることができるから、自然と見なくなるんだと思います。
コサイト 自然と会話がはずんだりするのかもしれない…。この「ぷくぷく・ポレポレの家」は、いわゆる子育て支援施設のように、とくに子ども用に作られた家ではありませんよね。ごく普通の民家で…そんな環境だからか、とてもリラックスしているように見えます。
鈴木 普通の家だから、利用者のみなさんには「基本的には目を離さないでくださいね」と伝えています。結果として、お互いがいっしょに子どもたちを見ながら過ごしています。
山形 ここに集った数人のママで子どもたちを見て、それ以外のママたちがゆっくりお茶を飲んでいたりとか。そういうことがごく自然に行われているんですよ。
コサイト 理想的ですね。
山形 私たちがとくに促したわけでもなく、自然にそういう形になっていきました。居心地がいいからか、ここも少しずつ利用者が増えています。
コサイト 子どもたちも楽しそうですね。
山形 この部屋でお茶を飲んでいると、障子が破れたところから庭で遊ぶ子どもたちの様子が見えるところもいいでしょう?(笑)
コサイト あはは、本当ですね。
鈴木 ちょうどいいから、あえて障子は貼り直していないんですよ…なんて、貼り直さない言い訳みたいですけれど(笑)。
コサイト この穴は破けた結果、でしたか(笑)。ちょっと芝生があって周りに木々があって…理想的なお庭です。
自然な「預け合い」ができるわけ
コサイト 山口さんは、子育て中の人たちが孤立しないような活動をしていきたいという想いがあるんですよね。
山口 はい。子育ての悩みはネットで調べることが増えていて、身近な人たちに相談する機会は減っています。それが、よりいっそう「孤立」を深めているのではないでしょうか。それに、ネットに書いてある「答え」はあくまでも一般論であり、わが子に当てはまるものばかりではありませんから、どんどん不安になってしまう…。
鈴木 豊かになるほど、孤立が深まっているという気がしてなりません。
コサイト だからこそ、こういう場は大切ですね。先ほど利用者のママが「ちょっと抱っこしてくれるだけで、気持ちが楽になります」と話していました。
鈴木 それにここでは、ママ同士でも自然な形で子どもを預け合えていますしね。
山口 預け合えるのは、この場で出会って交流する中で「信頼関係」が築かれているからできているのだと思います。地域で子どもたちを見守り育てるということは、日頃からの「信頼関係」があって初めてできることですから。
ちょっと疲れたときに行ける場所
コサイト ところで、今日は「おしゃべり会」の日とのことですが、どんなことをしているのですか?
鈴木 ざっくばらんに子育てのことをおしゃべりしています。それこそパパの愚痴を言ったり…(笑)。最近は講座を企画することも増えました。たとえば離乳食講座や絵本の読み聞かせなどです。近所にある「ふれあいの家」を利用することが多いのですが、今日は場所がとれなかったのでここでやっています。にぎやかでしょう?
コサイト 楽しそうですね!講座をきっかけにして、ここを利用する人もいるのでは?
鈴木 そうなんです。一度ここの存在を知ってもらうと、その後は何回も来てくれるようになり、一気に私たちや利用者さん同士の関係が深まります。実はここにはサポーターとして運営を手伝ってくれているシニアの方達もいらっしゃるんですよ。みなさん「孫を見ているようだ」と楽しんでいます(笑)。
コサイト 第二の実家みたいですね。
山口 子育て中のお母さんだけではなく、多世代の人たちが集う場であってほしいです。子育て中の人たちのための施設ではなく、みんなの居場所のような…。
山形 悩みがある、相談したいから行く場所も必要です。でも、相談したいわけじゃないけれど、ちょっと疲れたからゆっくりしに行きたいと思える…そんな「行き場」が地域にあることが大切だと思っています。
コサイト ここはまさに、そんな「行き場」なんですね。
写真右から、山形佐紀さん(臨床心理士)、山口ゆみさん(コーディネーター)、鈴木賀代子さん(代表・保育士)、滝柳まき子さん(保育士)。