2016年3月26日、京王多摩川駅近くの多摩川河川敷で開催された「ねぶくろシネマ」。京王線の橋脚をスクリーンに、映画「E.T.」を上映するという魅力的なイベントには、たくさんの家族連れなどが訪れました。「ねぶくろシネマ」の名のとおり、参加者は寝袋やテントなど寒さ対策万全。3月とはいえ寒い日で風も強く体感温度はかなり低い状況でしたが、実に400人以上の人たちが屋外での映画を堪能しました。
子どもも大人も楽しめる、他にはない屋外での映画上映会。
そんな魅力的なイベントをしかけたのが、調布市小島町にあるco-ba chofuを拠点に設立された「合同会社パッチワークス」のみなさんです。
「ねぶくろシネマ」を作った人々
コサイト 先日の「ねぶくろシネマ」は大成功でしたね!合同会社パッチワークスとして企画・運営されたとのことですが、まずは設立の経緯をお伺いしたいのですけれど…。それぞれみなさん、co-baに拠点置いてお仕事をされていますね。簡単に自己紹介をお願いします。
唐品 唐品知浩といいます。染地に住んでいます。結婚してから調布で暮らすようになりまして、子どもは3人。仕事で別荘の不動産ポータルサイトを運営しています。会社は都心にあるのですけれど、通勤時間を家族のために費やすことができればと思い、co-ba chofuに事務所を借りました。
古田 古田裕と申します。子どもは5歳で、家は西つつじケ丘です。子どもの小学校入学をひかえ、昨年会社をやめてフリーランスになりました。今はフリーデザイナーとして働いています。唐品さんと同じで、通勤時間を子どもの送り迎えにまわそうと考えました。そして、そのタイミングでco-ba chofuの存在を知ったんです。
コサイト お二人ともお子さんの存在がきっかけで仕事の拠点を調布に置いたんですね。関根麗さんもお子さんがいらっしゃいますね。
関根 僕は大学卒業後ずっとフリーランスのデザイナーとして仕事をしてきました。結婚してしばらくは自宅を事務所にしていたのですが、子どもが生まれ、成長するにつれて仕事がしにくくなって…。子どもは10歳と5歳です。
コサイト ありがとうございます。お三方ともco-ba chofuに事務所をお持ちなんですよね。そしてこの場を立ち上げ期から運営していたのが、薩川良弥さん。調布は生まれたときからずっとだそうで。
薩川 実家は染地で、小島町に住んでいます。えーと、まだお父さんではありません。3年前に勤めていた会社を辞めて、生まれ育った調布という地域で何ができるのかと模索を始めました。
コサイト 素敵なイベントをやっていましたよね。
薩川 対話を通してアイデアを共有する「green drinks」というイベントです。そこから地域とのつながりが広がって、co-ba chofuを始めることになりました。
コサイト 企業との連携で生まれたとうかがっています。
薩川 はい、林建設株式会社さんの「地域のために場を作りたい」というお考えがあって始まった事業です。僕自身、地域でキラリと光るのは「人」だと確信がありました。人が主体的に活動できる環境を作りたいという思いで関わることになりました。
唐品 僕はここの最初の会員なんですよ。ところがco-ba chofuがなかなかスタートしなかった時期があって、薩川くんといろいろ話しているうちに、地域で何かできたらいいねという話になりました。他の場所で「不動産を面白がる会」という、いわゆる「ブレスト飲み会」を個人的に運営していたこともあり、じゃあ調布でもやってみようかと。
コサイト それが、「調布を面白がるバー」ですね!
唐品 「日本仕事百貨」のナカムラケンタ君という人がやっている「しごとバー」から、名前の一部をいただきました。調布の住人たちが気軽に飲みながら、アイデアを出し合える「居酒屋」みたいなものができたらいいよね、と2014年の11月ぐらいから始めました。
コサイト そこで語られたことの中には、子育て世代を意識したものもあったのでしょうか。
唐品 そうですね。調布は30〜40代の子育て世代が比較的多く、新住民もどんどん入ってきています。まさに僕らの世代。つまり僕達が面白いと思えるものは、きっと街の人たちの共感を得られるはずだと考えました。
薩川 パッチワークは布をつなぎ合わせるという意味があります。いろんな人がつながることで、何かが生まれる。そんな感触がある中「調布を面白がるバー」を企画したら、30人ぐらいの人が集まったんです。
コサイト すごいですね。
薩川 手応えを感じました。もっと街のことをやろうよと旗を振れば、いろんな人が来てくれそうだなと。
唐品 地域を何とかしたいと思っている薩川くんと、いろんなアイデアを持ち行動力のあるお父さんたちが集ったということですね。
コサイト その流れで、会社を設立されたということでしょうか。
唐品 はい。街に対して何かをやるときには、「覚悟」を示すという意味でも会社組織であることが必要と考えました。マネタイズも考えた上で街に対して何ができるのか、やってみたかったのです。もちろん、いろいろ制限は出てきますけれど、その中でいかにできうるか、何ができるかを模索している感じですね。
関根 ただ「やりたい」だけではなく、責任と覚悟をもってやっているということです。
自分たちが「面白がる」
▲ねぶくろシネマは、馴染みあるあの場所、多摩川河川敷で開催されました。
コサイト 今回の「ねぶくろシネマ」では、パッチワークスの皆さんがまず楽しんでイベントを運営されている姿が魅力的でした。大人が本気で面白がっていたもの。
唐品 そうなんです。さきほど「街のために」と言いましたけれど、まずは自分たちが楽しくなくては。「ねぶくろシネマ」が楽しければ、そこで生まれる横のつながりも、参加することも楽しくなる。結果として地域の活性化にもつながります。
コサイト 地域での活動でつい見失われがちな視点かもしれません。
唐品 「面白がる」という感覚が、たとえば小学校単位などで開催するイベントなどでも取り入れられたらいいなと思っています。
関根 僕は地域にこだわっていません。むしろ地域にとらわれる必要がないと思っています。
コサイト といいますと?
関根 今回のイベントだって、いろんな地域から参加してくれています。たまたま調布に場所があったからやったわけです。面白い仕掛けがあれば、いろんな地域から人は集まるし、それを見ている子どもたちが「面白い」と喜んでくれたらそれでいいです。
唐品 関根さんのお子さん、すごく楽しんでいたよね。ねぶくろシネマ満喫(笑)。プロジェクターの真後ろに寝袋を持ってきて、カイロをつめこんで、毛布をかけて…。
コサイト お子さんは「このイベントはうちのお父さんがやっている」という、誇らしさを感じたでしょうね。
関根 そこまで思ってるかな〜。
古田 大きくなっても「多摩川の河原で映画を見た」ということは、忘れないだろうと思います。
子ども時代の忘れられない思い出ってありますよね。多摩川の河川敷で、寒い中で家族や友だちとワイワイ言いながら映画「E.T.」を観る。大人だって相当ワクワクします。このイベントの面白いところは、映画を上映しているのに、容赦なくその真上を電車が通過するということ。つまり映画なのに、音が聞こえないことだってあるんです。それをも面白がることができるところが、面白い!
パッチワークスの皆さんは、父親という存在をも「面白がる」ことになるのですが、そのお話は次回をどうぞお楽しみに。
(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)
合同会社パッチワークスのみなさん。写真左から唐品知浩さん、古田裕さん、関根麗さん、薩川良弥さん。合同会社パッチワークス http://patchworks.co.jp/