3月に2回目が実施され大盛況だった「ねぶくろシネマ」。多摩川にかかる京王線の橋脚に、あの名作「E.T.」を上映するというイベントには、なんと400人を超える人たちが集まりました。飲み物やサンドウィッチなどのお店も出て、ちょっとしたお祭り気分。映画が始まるのは暗くなってからですが、数時間前から人が集まり始め、会場は期待に溢れていました。
この前代未聞とも言えるイベントを仕掛けた4人へのインタビューは、まだまだ続きます。
「ワクワクが止まらない」大人たち
コサイト それにしても400人以上の人が集まるなんて、すごいことです。
関根 予想を超えた参加者でした。多摩川の河川敷に降りる階段があるんですけれど、明るい時間帯から続々と人が集まってくる…大人も子どもも寝袋や防寒具を抱えて様子が、普段とは違う光景で面白かった(笑)。
コサイト そこも面白がるのか〜(笑)。
関根 家族連れも多くて、映画の要所要所で子どもたちの笑い声が聞こえました。けっこう集中して見ていたと思いますよ。
唐品 寒い中でしたが、沢山の方が最後まで映画を観てくれました。終わったとき、押し寄せる拍手が感動的でした。
コサイト わ〜、いいですね〜。そうそう、あの日は天気もよくて、映画が終わった時間、空には大きな月が出ていたところも映画の内容とマッチしすぎていてびっくり。参加した知人は月に向かって自転車をこいで帰宅した、テンション上がったと話していました。
古田 何もかもが、いい感じだったと思います。実はですね、やっている自分たちがいちばん楽しかったのではないかと思うんですよ。準備段階から本当に楽しかった!1回目はちょっとピリついていましたから。
唐品 前回は「できるのかな」というところもあったものですから…(笑)。2回目は、どこから何を運ぶのかなど、流れがわかっていたので余裕がありました。
古田 もうワクワクが止まらない!
コサイト 学園祭のような楽しさ?
古田 楽しみすぎて、前日から相当盛り上がっていました。
コサイト 遠足前の子どものような…(笑)。
関根 当日も相当楽しかったけど、最初にあの場所にプロジェクターを持って行ったときの興奮もすごかったよね。
唐品 そうそう!
関根 みんなで話しているうちに「とにかく持って行って映してみよう」ということになって。
コサイト えーと、それはどの段階でしょう。
唐品 調布市産業振興課の皆さんもお招きして「映画のまち調布」をテーマにした「調布を面白がる会」でアイデアが出て…その2週間後には調布市の許可を取り、4人で発電機とプロジェクターを持って行き、とりあえず試してみようということになりました。
コサイト 行動が早い!
唐品 そして映したときの感動がすごかったんです。会議用のプロジェクターなんですけれど、すごくキレイに映る。
古田 その時に「この感動は共有できる」という感触があったんです。これならすぐにできる、できるだけ早くやろうと。
唐品 「これ面白い!」っていう感覚、非日常感がありました。上映中に電車が通ったって関係ないってね。
古田 電車が通れば、映画の音声は聞こえないかもしれない。でも、電車は通るんだもんっていう。
コサイト そういうこともあるさ、っていう感じですかね。
唐品 一応、イベントの冒頭で「7分に1回電車が通ります」ってアナウンスしました。みなさん受け入れている感じでした。
古田 むしろその状況が楽しいんですよ。
薩川 そういう雰囲気をも「面白がる」っていうことだと思うんですよね。寒いことも電車が通ることも、全部楽しむ。そのマインドセットがないと成立しません。
コサイト 確かにそうですね。実は私も寒いのは苦手。でもやっぱり「寒いけど観にいこうか」って。
薩川 僕らも寒かったですよ〜。でもそれでもやってよかったと思っています。
関根 寒さより面白さが勝つ!
行政との信頼関係を作る
コサイト ときに「面白がる」という表現が誤解されることもあるのでは?
関根 だからこそ会社を作ってやっているんです。関係各所への許可を取り付け、上映作品もしかるべきところから手続きを経て借りてきているわけですから。
コサイト ちゃんと考えていらっしゃる。
古田 中身は中学生でも、外見は大人ですから(笑)。
薩川 会場で使う椅子などは調布市からお借りしました。僕達を信頼してくださったからだと思うんですね。最初はどこか得体のしれない存在だっただろうと思います。だから「本当に河川敷を貸していいのか」「近隣住民への配慮ができるのか」といった不安もあったはず。僕たちはとにかく積極的に行政とコミュニケーションを取り、「市民が責任をもってやる」という姿勢を示し続けました。
コサイト そこは丁寧に信頼関係を紡いでいくことも大切なのですね。
父親を面白がる
コサイト この中の3人が「父親」だということですが、以前co-ba chofuでは「父親を面白がる会」というブレスト飲み会も企画されていましたよね。
唐品 あれは都内の別の場所でやっていた会を、調布でもやろうということになり。父親としてできることを、あらためて考えてみたいよねって。
コサイト 子育てに積極的に参加するお父さんのことを「イクメン」っていいますけれど、違和感ありますか?
唐品 言われて嬉しいお父さんは少ないのではないかな。「父親を面白がる会」では、お父さん向けのワークショップを企画したらどうかという話になりました。
薩川 たとえば、お父さんがチャーハンを作ったらすごく美味しいとか。
古田 包丁を研ぐのが上手いとか。
唐品 娘の髪の毛を、お父さんがささっと結いましたとか。
コサイト 娘の髪の毛、編みこみましたけど何か?とか。
唐品 そうそう! ごめんごめん、ちょっとやり過ぎちゃったなあ、と驚く妻に言える面白さ。
コサイト あははは。
唐品 昔のお父さんたちって、日曜大工とかで結構何でも作っていましたよね。そういう「ワザ」がもう少しお父さん同士で共有されて、家の中のちょっとしたことができるようになったら、面白いと思ったんです。というわけで「ワークショップビレッジミニ」という企画をやりました。
コサイト ワークショップでやったことを、家でささっとやって見せる。家族へのサプライズですね。
唐品 「育児に参加しよう」ということとは違って、親父に何ができるかという視点。せっかくやるなら感謝されたほうがいいでしょう。
関根 うちの長男は完全母乳だったんですよ。泣く子を落ち着かせることができる母乳は、父親にはありません。「母親と同じことは絶対にできないな」と思い知りました。ならば父親として何ができるかって考えました。とにかく子どもと一生懸命遊ぶとか、子どもを連れ出して妻に休んでもらうとか。
コサイト できることをやればいいし、お父さんだからこそできることは沢山あるはずですね!
パッチワークスのみなさんは、大きなイベントも軽々と運営しているように見えますが、そこには責任と覚悟がありました。男性だからこそのアイデア、父親だからこその感覚を持っているところも魅力です。何事にも真剣に「面白がる」大人の姿を見た子どもたちは、きっと「自分もあんな大人になりたい」と思うことでしょう。
(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)
合同会社パッチワークスのみなさん。写真左から唐品知浩さん、古田裕さん、関根麗さん、薩川良弥さん。合同会社パッチワークス http://patchworks.co.jp/