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いっしょに育て隊

第29回
調布市公立保育園統括園長 高野美抄さん
保育士のキモチ、保育園のこれから(前編)

2016年6月2日 公開

調布市役所の中にある、子ども生活部保育課副主幹の高野美抄さんは、昨年度から設置された新たなポスト「統括園長」に就任。公立認可保育園を束ね、私立保育園との連携などを通して保育行政の充実を目指して活躍中です。

 

公立保育園の保育士から園長を経て、現職に至った経緯は?そもそも「統括園長」ってどんな人なのでしょう?

 

雨降りの5月某日。2年前まで園長を勤めていたという、調布市立第五保育園に伺いました。

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新人保育士との関わり

 

コサイト 「統括園長」は、調布市のすべての保育園を「統括」するというお仕事なのですか?

 

高野 まとめているのは公立保育園ですが、私立保育園との連携も前進させたいなと思っています。この職種には、長年保育園で勤務してきた「現場の知見」や「専門性」を保育政策に活かしていくことなどが求められているのです。

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コサイト 高野さんが全体を見渡す立場にいらっしゃることで、課題が明確になり、保育園が滞りなく運営されていると…。実際に保育園を訪問しているそうで、現場は気持ちが引き締まりますね!

 

高野 「あ、統括が来た!」とか言われたりして…いえいえ、そんなことないですよ(笑)。現場の園長は、私にとっては大先輩ばかりですから…。保育士になり、そのうち26年は現場で働いてきました。最後の3年を園長の経験をさせてもらって、昨年からこの仕事です。

 

コサイト 新しく保育士さんになった方たちへのサポートもされているとか。

 

高野 大きな夢を抱いている新人保育士の多くは、現実の厳しさを知って挫折しかけるんです。

 

コサイト 具体的には、どのような悩みが多いのでしょう?

 

高野 「先輩のようにうまくできない」とか、「保護者の方たちと上手にコミュニケーションできない」とか、「子どもたちが言うことを聞いてくれない」とか…。どれも初めから上手にできるわけがないのですけれどね。

 

コサイト 理想と現実のギャップに悩むのですね。

 

高野 悩める新人たちには「保育士としてまず1年はやってみてから、もう一度考えるように」と話しています。仕事について少しずつ理解し、保護者との関係も深まっていくものなのですから。

 

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お母さんたちに支えられた新人時代

 

コサイト 高野さんは、なぜ保育士になったのですか?

 

高野 実は保育士を目指していたわけではなく、進学の挫折やら何やらあって、方向転換した結果なんです。でも、子どもと遊ぶのは好きでしたね。私は秋田の田舎町で育ちました。家の近所では保育園児から中学生ぐらいまでの子どもが一緒になって遊んでいたので、保育士になってからも、子どもたちの相手をするのはごく自然なことだったんです。

 

 

コサイト ご自身はどんな「新人保育士」だったのでしょう。

 

高野 初年度は0歳児クラスの担当になりました。4人の保育士で1クラスを見るのですが、短大を卒業した同級生たちは1年目から1人で4歳児、5歳児の担任になっていたりして、自分は何をやっているんだという思いでした。

 

コサイト 0歳児は手厚い保育が必要なのですから、大変さは変わらないのでは?

 

高野 もちろんです。でも私って生意気だったみたいで「次は1人で担任を持ちたい」と手を上げてしまいました。ところが当時、調布市の公立保育園では2年目の保育士が1人で担任を持つことはほとんどありえなかったので先輩たちは困っていました。

 

コサイト うわ〜結構「生意気」かも(笑)。もしかして、その反対を押し切ったとか…。

 

高野 そのとき、とある先輩が「せっかくここまで本気になっているんだから、やらせてみればいい」って言ってくれて。

 

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コサイト おお〜。

 

高野 そこで初めて1人担任を経験し、「子どもを育てるって大変なんだ」と実感することになりました(笑)。

 

コサイト 1人で乗り切ったんですね。

 

高野 いえいえ。保護者のお母さんたちに、随分支えてもらいましたね。まだ若い保育士の私に「先生はわからないかもしれないけれどさ…」っていろいろ話してくださいました。なのに生意気な私は「でも、こうだと思います」なんて返したりして。

 

コサイト 若かった…!

 

高野 思えばこういうやり取りの積み重ねで、育てていただいたのだと思います。お母さんたちは、家でのお子さんの様子をいろいろ話してくれていました。保護者の皆さんには本当に感謝しかありません!

 

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わが子を預け、保育士として働くジレンマ

 

コサイト 高野さんもまた、子育てをしながら働いているママですよね。

 

高野 はい。育休後復帰してすぐの頃は、自分の子どもを保育園に預けて、職場で他の子どもの世話をしていることにジレンマがありました。それと、うちの子はとにかく泣いたんです。保育園に預けて部屋を出て、外に出ても聞こえるぐらいの声で泣き叫ぶものですから…。

 

コサイト 保育園の先生方は「泣いても大丈夫ですよ」って言いますよ。

 

高野 そうですよね〜。私も出産前までは「お母さん大丈夫」ってあまり深く考えずに言っていたような気がします。でも、現実に自分の子どもが大泣きして、あの「後ろ髪を引かれる思い」を味わってからは声がけも変わりました。「お母さんも心配だよね、でもお仕事頑張って。子どもも頑張るから」と。

 

コサイト 優しくなったんですね。

 

高野 きっとそうです。周囲から「変わったね」って言われました(笑)。

 

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お母さんたちのキャリアを支える

 

コサイト 保育士さんたちは、そういう一つ一つのやり取りを通しても、保護者の「働きながら子育てをする大変さ」をサポートしているのですね。

 

高野 私も子どもを預けて働くことには、随分悩みましたよ。我が子をよそに預けてまで働くのかと。そんなときにアドバイスしてくれたのも先輩たちでした。

 

コサイト 高野さんは、いろんな人に支えてもらっていますね。

 

高野 本当に。「高野さん、保育園は子どもの長い人生の中のほんの6年程度。せっかく働き続けているのに、ここで切ってしまっていいの?」って。

 

コサイト キャリアを途切れさせないほうがいいということですね。

 

高野 そうか、働き続けることも大事なんだって気付きました。保育士時代は、よく「仕事を辞めたい」というお母さんたちから相談されることがあり、励ましてきました。「あと1年だから頑張ろうよ」とか「お母さんとしての人生もあるしね」と。

 

コサイト 子育てでいっぱいになってしまう時期だけれど、長い目で見れば子育てで忙しいのは一時のこと。お母さんが自分自身の人生を見失わないことも大事ですよね。

 

高野 保育園は、そんなお母さんたちを支えたいという思いで、日々運営しています。それぞれの人生を、想いを持って歩んでいるのですから、出来る限りサポートしたいと思っています。

 

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今、保育園といえば「待機児童」問題が待ったなし。調布市でも次々と新しい保育園を作っています。それでも解決しない課題は山積の中、高野さんのような存在が、それぞれの立場の人たちや考え方をつなぎ、新しい政策につなげていってくれることでしょう。インタビュー後編では、保育という仕事への思いやこれからの公立保育園のあり方までさらに言及。どうぞご期待ください。

(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)

執筆者

高野美抄(たかの・みさ) 調布市子ども生活部保育課副主幹・公立保育園統括園長。短大卒業後、調布市の保育士として公立保育園に勤務。平成24年から調布市立宮ノ下保育園園長、26年から調布市立第五保育園園長を歴任し、現職。調布市に暮らして28年目の調布LOVER。1女の母。

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