仙川駅からすぐ、住宅街の真ん中で2年前から始まったマンション養蜂。インタビュー前編では、何か地域と関わりを持ちたいと思っていた児島秀樹さんが、街のゴミ拾いを始め、そこから仙川駅前周辺の緑化、養蜂へとつながっていく経緯をご紹介しました。
それにしても、いきなり養蜂とは。そもそも蜂はどこからやってきたのでしょう?
コサイト 児島さんたちが育てている蜂はどこから…?
児島 あきる野市の養蜂家から、1シーズン単位でレンタルしています。もちろん有料ですよ。借りてくるときは、巣箱のみつばちは約5000匹です。そこからどんどん増えていって最も多いときで約20000~30000匹ほどになります。
コサイト 5000匹のみつばちが入っている巣箱を、どうやって運ぶのですか?
児島 普通に車に積んで運びましたけど。
コサイト え、大丈夫ですか?
児島 ちゃんと蜂の出入り口を封じて出られないようにしているので、大丈夫ですよ。
マンション養蜂をする「覚悟」
コサイト 安心しました。でも住宅街での養蜂ですから、心配する方も多いと思います。地域の方たちへの理解はどのように?
児島 本来みつばちは花に興味があり、人を刺したいのではありません。安全な生き物なのです。でも、蜂だから絶対何もないとも言えません。僕の場合、街のゴミ拾いや緑化を通じて地域の皆さんと関係性があったので、多少は話しやすかったと思います。もちろん簡単なことではありません。丁寧に説明し、最終的には「何かあったら僕が責任を負う」ということで納得していただきました。
コサイト 覚悟を示すことも大事ですね!
児島 「はちみつが採れる街なのかを検証するため、とりあえず1年だけ実験させてほしい」と期限を区切ってお願いしたことも、みなさんの理解に繋がったと思います。結果、大きな問題は起こらず、採れたはちみつはマンションの皆さんやお隣の方へもお分けして喜んでもらえましたし。というわけで2年目も継続することができました。
コサイト それにしても養蜂は大変でしょう。
児島 いや〜楽しいですよ。もともとは虫が嫌いだったのですけれどね。
コサイト ええ〜!?
児島 飛ぶもの全般が苦手なので(笑)、蜂なんて…ありえなかったんです。
コサイト それが今や蜂に魅せられている。児島さん、いったいどうしちゃったんですか!
児島 おかしいでしょう(笑)。でも、あの虫があんなに美味しい蜜を作ってくれるなんて…信じられますか?蜂を見ていると本当に一生懸命なんですよ。それだけで自分も元気が湧いてくる。みつばちは、およそ2キロ先ぐらいまで蜜を取りに飛んでいきます。他にも巣の掃除をしたり、子どものお世話をしたりと懸命です。自分たちの子孫が途絶えないように女王蜂は卵を産み、働き蜂が育てる。そういう循環を繰り返しているのです。
コサイト すごいことです。
児島 蜂のファミリーは女王蜂が1匹だけいて、働き蜂はすべてメス。オスは全体の1割しかおらず、1回の交尾だけで死んでしまいます。また冬になって蜜が採れなくなると、オスは巣から追い出されてしまうんです。
コサイト なんて過酷な!
児島 女王蜂は1日2000個の卵を産みます。その中で、選ばれた子どもだけが与えられるロイヤルゼリーを食べ、次代の女王蜂となるのです。
コサイト すごい。そうやって命を繋いでいるんですね。
児島 生命の神秘を感じます。それにね、みつばちはどこかで農薬に被爆したらもう帰ってきません。なぜなら自分たちの巣箱に毒物を持ち込まないためです。蜂の家族は全部で一つの身体のようなもので、一匹一匹はいわば細胞のような存在。自分の身を呈して外敵から守っている。「社会性昆虫」とも呼ばれています。そんな蜂たちの様子は、見ていて飽きることがありません。決して人間のために蜜を集めてくる訳ではないので、みつばちの努力に「ありがとう」と感謝しながらはちみつを頂くようにしています。(笑)。
コサイト ありがたいことです。
児島 とにかく、みつばちと触れる良さは理屈ではない心地よさがあると思っているのです。
子どもたちのための「みつばちの学校」
コサイト そんな蜂の魅力を伝えたいと始めたのが、子ども向けの「みつばちの学校」ですね。
児島 はい、今年で2年目になります。内容は巣箱見学、はちみつ絞り、みつばちの生態講座、はちみつテイスティング、仙川はちみつを使った石鹸つくりなどを行いました。さらにみんなでゴミ拾いをしながら僕達が緑化した公園を見に行き、実際に咲いているヒマワリにみつばちが来ている様子も子どもたちに見てもらうことができました。
▲ 公園の一角に、児島さんたちが設置したプランターが並んでいます。
コサイト 巣箱、はちみつ、緑化、飛んでくるみつばち…全部見ることができて、子どもたちも興味深かったでしょうね!
児島 もう興味津々でしたよ。講座も好評で15人の子どもたちで満席になりました。
コサイト 親としては自由研究にもよさそうという下心を感じてしまいました(笑)。それにしてもずいぶん濃密な講座でしたね。
児島 盛り込みすぎたかなあという感じでしたが、子どもたちはちゃんとついてきてくれました!蜂というと「危険だから」と遠ざける事が多いのですが、講座では安全も確保しています。何より蜂との付き合い方がわかるようになりますし、同じ蜂でもスズメバチなど危険な蜂かどうか、その違いを知る機会にもなります。
コサイト 見分けられなければ、危険ですものね。
児島 そして、懸命に生きる蜂たちからいろんなことを感じてほしいですね。
コサイト 児島さんは、若者支援についてもお考えがあるそうで。
児島 僕としては、既存の教育では得られない経験を、みつばちを通じて伝えたいと考えています。不登校や引きこもりなどで悩んでいる子どもたちにも、世の中には違うチャンネルがあることを伝えたい。
コサイト 養蜂を通じて?
児島 はい、社会に関わるきっかけになればと思います。養蜂から得られるはちみつは食品ですから、そこから食の世界に関心を持つ若者もいるかもしれません。食べて美味しい、健康になる、みんなに喜ばれる、化粧品にだってなってしまう、それがはちみつなんです。(編集部注:はちみつは1歳未満の子どもに与えないでください)
コサイト いろんな世界につながる可能性がありますね。
児島 蜂と向き合い、自然と繋がり、はちみつを作る、売る、そして感謝されるという体験から生きる勇気を持ってもらうことができたらと考えています。近い将来、若者たちのためのプログラムを調布市内で実現したいと考えています。今は、その為の場所探しと仲間集めをしています。
▲ 児島さんたちが養蜂で採蜜した「仙川はちみつ」。市内イベントなどで販売しています。
コサイト そういう展開もありそうですね!
児島 進んでゴミ拾いをする人は少ないかもしれません。しかし私はゴミ拾いをすることでこれまで見えていなかったものが見えるようになり、自分の価値観や行動が変わりました。世の中の価値観に縛られるのではなく、自分の価値観で行動することができれば、みんなもっともっと生き生きするはず。僕が地域活動や養蜂を通して体験したことを、子どもや若者たちに伝えていきたいです。考えるだけじゃなく、まず行動してみることで変わることもあるんです。
養蜂歴2年目ですが、すでに仙川地域では「蜂の先生」と呼ばれるまでになっているという児島秀樹さん。ますますの活躍に期待が高まりますね!そして春から始まる3年目の養蜂も楽しみです。(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)
児島秀樹(こじま・ひでき) グッドモーニング仙川!プロジェクト代表。仙川在住歴12年。サラリーマン生活の傍ら、3年前の2014年に「グッドモーニング仙川!プロジェクト」を始動。仙川駅前のゴミ拾いや緑化活動のほか、マンション養蜂を始めて2年。平日は会社勤め、週末は地域活動を行っている。高校生と中学生の男の子のお父さん。 グッドモーニング仙川!プロジェクト ホームページ https://gmsengawa.com/