2019年の調布国際音楽祭は6月23日(日)から30日(日)まで行われます。音楽祭においてアソシエイト・プロデューサーを務めるピアニスト。動画サイトではピアニート公爵として、一躍有名になった方でもあります。インタビュー前編でご紹介したとおり、思い切り調布育ちの森下さん。調布国際音楽祭にかける思いとは?
「クラシック」だって千差万別!
コサイト 調布国際音楽祭はクラシック音楽のコンサートが中心ですが…クラシックはハードルが高いという印象もあります。
森下 僕は「クラシック」というジャンルのくくりは無くなってもいいのではないかと思っています。音楽にはそれぞれ様々な気分とか文化といった背景があって生まれているもので、クラシック音楽もそれは同じことだと思うのです。クラシック音楽も、それを心からの表現として作った人間が確かに後ろにいるわけですし、かつ長い歴史の中で選ばれて残ってきたものが多い……つまり、クオリティも折り紙つきの作品だらけというわけです。
コサイト 納得です!実際、調布国際音楽祭のプログラムを拝見すると、バラエティに富んでいて、とくに子ども向けの企画は楽しそうです。きっと、親子で行ってみたいなあと思えますね。
森下 自分の子どもにはいいものを聴いて育ってほしいものですよね。
コサイト その思いは多くの親が持っていますね、きっと。
森下 芸術というのは本来、不穏当だったり危うかったりといった面を持っています。クラシックだって決して安心・安全なものではないんですが、それでも時代を経て評価が定まると、社会的にその表現が認められるというか、許された感じが出てくる。許される範囲での優れた作品、というものの選別も進んでいます。だからこそ、クラシック音楽祭は子連れで出かけるには最高の催しだと思うんですよ。
コサイト とはいえ一般的には、クラシックコンサートに子連れは難しいことがほとんどです…。
森下 クラシック音楽はどうしても、細かい表現や音の響きを聴いてこそ、というところがありますから……。でも、今回の音楽祭ではキッズ公演はすべて0歳から入場できますし、オープニング・コンサートも3歳から入場できます。そのほかのプログラムもすべて小学生以上は入場OKですので、ぜひこの機会に本物の音を体験してほしいと思います。
コサイト 本物の音を地元調布で、ですね。
森下 子育て中は遠くへ出かけるのは大変ですよね。だからこそ、身近で上質な音楽に触れる機会を作りたいんです。しかもリーズナブル!オープニングコンサートなんてワンコインの500円ですから。
コサイト 気前がいいですね〜。そして子どもが少しぐらいぐずっても大丈夫!?
森下 なんたってお祭りですから、多少のことは…ねえ(笑)。
コサイト めったにできない体験になりそう!
森下 調布国際音楽祭では「次世代への継承」というテーマを掲げています。よいもの、大事なものをしっかりと伝えていきたいと。そして、クラシックは「安全な芸術」ではなく、楽しかったりヒリヒリきたり、ちゃんと魂の震える世界なのだということもあわせて伝えたいですね。
楽しい音楽を馴染みのホールで
コサイト 会場となるグリーンホールは、地元の子どもたちにとっては馴染みのホールでもあり、そこもまた魅力です。
森下 そうそう、小学校や中学校になると、合唱コンクールなどでも使われていますね。僕も幼稚園の発表会はグリーンホールの小ホールでした。
コサイト お〜、さすが地元!
森下 グリーンホールも文化会館たづくりにあるくすのきホールも、音響はいいですよ。実は僕、自分のCDアルバムはくすのきホールで録音しているんです。
コサイト CD録音ができるぐらい、いいホールということですね。
森下 音の反響を変えられるなど、いろんなことができます。そんなホールですから、音楽祭でもきっと音楽に集中して聴いていただけるはず。それから、10月には僕のリサイタルもくすのきホールでやることが決まっています。
コサイト CDもリサイタルも楽しみです!
コサイト 調布国際音楽祭は、毎年のことながらどのプログラムもかなりクオリティの高い内容です。なのに、先程話題に出たオープニングコンサート以外も、価格がとてもリーズナブルです。
森下 実際、この内容でこの価格はお得だと思っています。たとえば6月28、29日の「午後のオペラ《後宮からの誘拐》」は、オペラなのに4桁ですからね。ことによると歌劇場公演のSS席なんかの10分の1くらいなのでは!? しかも古楽器、つまりモーツァルトなどが活躍していた頃に、実際に使われていた様式の楽器を使って演奏されるんです。
コサイト モーツァルトが生きていた時代の音の響きが再現される、ということでしょうか。
森下 指揮の鈴木優人君も言っていたことなのですが、「モーツァルトがやりたかったことはこういうことなのか!」という発見があるはずです。
コサイト うわ〜。作曲された時代にタイムスリップしたような気分になりそう!?
森下 ぐっと参加しやすいところでは、無料公演もいろいろとご用意していますので、ぜひ立ち寄ってほしいです。たとえば、6月29日(土)、30日(日)はたづくりエントランスホールやむらさきホールで行われるほか、昼間はたづくりやグリーンホール近くの屋外で、地元調布の音楽家たちによるコンサートもあります。
コサイト 調布のまちに音楽があふれますね!
誰もが気軽に、参加しやすい音楽祭
コサイト 森下さんは、これまでの音楽祭運営を通して、どのような手応えを感じていらっしゃるのでしょう。
森下 いろいろありますけれど、やはり最後の公演が終わった後の熱量がとてもいいなあと思っています。観客のみなさんの表情、終わったあとの余韻が本当に素晴らしくて。
コサイト 観客も運営側も、その場にいるからこそ、体験できることですね。ボランティアさんもたくさんいらっしゃると聞きました。
森下 ボランティアさんたちの支えなくして、音楽祭は成立しないほど、サポートしてもらっています。嬉しいことに、皆さんとても楽しんでくださっていて、毎年参加されているリピーターの方も多いんですよ。「いいものをやっている」という自負があるように感じています。ありがたいことです。
コサイト スタッフの皆さんも楽しんでいらっしゃる。
森下 僕はどちらかというと音楽には個人で浸りたいタイプなのですが、音楽祭は「祭り」です。スタッフも観客の方たちも、とにかくたくさんの人に楽しんでいただけたらと思います。だから、僕みたいなタイプの人でも、気楽に参加できて楽しめるような雰囲気を、率先して作っていきたいと思っているんです。
(撮影 楠聖子 取材・文 竹中裕子)
森下唯(もりした・ゆい) 東京芸術大学卒業、同大学大学院修了。2004年 第2回東京音楽コンクール第2位。2006年東京芸術大学大学院修了の際、演奏優秀者によるベーゼンドルファー・ジョイントリサイタルに選ばれた。ソロリサイタル、オーケストラとの共演のほか、スタジオ・ミュージャンとしても多くのレコーディングに参加。