創業明治38年、110年の歴史を誇る株式会社山田屋本店。調布の「まちのお米屋さん」として親しまれ、最近では百貨店に出店するなど、事業を展開しています。今回インタビューしたのは、この山田屋本店5代目当主の秋沢淳雄さん。調布市体育協会理事、調布市社会福祉協議会理事などもつとめ、子育て中の人たちを支える事業へも深く関わっています。
まちのお米屋さんとして、子どもたちのために何ができるのか。「お米離れ」が進んでいるという子育て世代に伝えたいこととは?
お米を食べない人が増えている
コサイト 創業110年って本当にすごいことだと思います。まちのお米屋さんとして、地域ではよく知られた存在だと思いますが、都心の百貨店にも出店されたりしているんですね。ただのまちのお米屋さんにはとどまっていないというか。
秋沢 ありがとうございます。事業を拡大したのは4代目、私の義理の父の時代です。業務用の販路を拡大するなどして会社を大きくしました。私は20代後半に、結婚を機に調布にやってきたんです。大学を卒業後は、金融機関に勤めていたのですが…。
コサイト お米屋さんの娘さんと結婚して、そして今があるのですね!
とはいえ銀行からお米屋さんとは大きな転換。さらに食生活も多様化し、米離れも進んでいると聞きます。秋沢さんがここでお仕事するようになってからは、ずいぶん大変だったのではありませんか?
秋沢 かつて米は米屋でしか買えませんでした。ところが平成7年に食糧法が変わり、米はどこでも買えるようになり、米屋は受難の時代に入ります。実際、調布市内には50件ほどの米屋があったのですが、今は11件にまで減ってしまったんですよ。
コサイト 随分減りましたね。
秋沢 一人一人が米を食べる量が、確実に減っています。私は仕事で出会う消費者の方たちに「米は主食だと思いますか」と聞いています。するとたいていは「米が主食だ」と答えてくれます。そこで1カ月でおよそ90回(3食×30日)の食事をしているとして「そのうち60回以上お米を食べていますか」と聞くと、「はい」と答えるのはごくわずか。45回、つまり2回に1回はご飯を食べている人も30%程度なんです。ちなみに、生産地の人たちは100%の人が60回以上食べていると答えてくれるのですが。
コサイト うわ、私も1日1回ぐらいです。たまに2回。ごはんが主食と言いながら、お米を食べる機会は確実に減っているんですね。
子どもたちに伝えたい「ごはん」の美味しさ
コサイト それにしても、なぜここまでお米離れが進んでしまったのでしょう。
秋沢 高度成長期以降、豊かになった日本では食が多様化しています。今はパンや麺類の人気も高いですよね。とくにパンはとても簡単で便利です。ほとんど調理の必要がないのですから。それにひきかえ米は必ず調理しなくてはなりません。おかずや汁物なども用意しなくてはなりませんから、手間もかかるし洗い物も出ますしね。
コサイト 食事がわりに菓子パンを食べたり、簡単だからと麺類ばかりになりがちなところもあります。とくに子育て中は、ささっと作れるもの、簡単なものに走ってしまうんです。
秋沢 子どもの健康を考えても、できれば和食を見直してほしいと思います。和食は世界無形遺産にもなりました。バランスがよい、健康的であるという面でも世界中が注目しています。この素晴しさを伝えないのはもったいない。
コサイト う〜ん。今の子どもたちは「ごはんの美味しさ」を体験しているのかと、ちょぴり心配になってきました。ほかほかのご飯を海苔と醤油の香り…「日本人でよかった」と思えるような感覚さえ、持てなくなっているのかもしれないですね。
秋沢 和食のありがたさ、という感覚は薄れているかもしれません。また、さらに少子高齢化で今後確実に人口が減少していますから、お米の消費量は全体的に縮小しているんです。
コサイト 大変なことになっていますね。せめて子どものうちにお米の美味しさ、すばらしさを知ってもらうために、何ができるのでしょう?
秋沢 以前、市内の小学校に出前授業のような形で話に行っていたことがありました。小学校では5年生のときにお米について学びます。45分程度の短い授業ですが、そこで私は土鍋や炊飯器などを持ち込み、お米のことを話し、実際に炊飯して食べてもらったりしました。
コサイト 子どもたちの反応は?
秋沢 すばらしく感度がいいんですよ。すでにお米のことについては詳しく学習しているので良く知っているし、とても興味を持って聞いてくれます。多くの子たちが「おにぎり大好き!」って口々に言っていたのが印象に残っています。
コサイト ご飯の美味しさを感じられるかどうかは、大人次第ですね…。各家庭で少しずつでも意識していけたらと思います。手間はかかるかもしれませんが、楽しみながら、できるところから少しずつ、和食を取り入れていけたらいいですね。
お米屋さんとして受難の時代が続く現代。山田屋本店では、いかにお米を食べてもらうかを常に考え、さまざまな事業を行っています。後編では山田屋本店が取り組んでいる「生き物みっけファーム」など、地域の子どもたちのための事業についてうかがいます。(取材・編集部 写真・赤石雅紀)
秋沢淳雄(あきざわ・あつお)さん 創業110年の老舗米店「株式会社山田屋本店」の代表取締役。地域との関わりも深く、調布青年会議所、調布市消防団を経て、現在では調布市社会福祉協議会理事、調布市体育協会理事なども務めている。