前編では、活動を始めたきっかけから息子さんの思春期の、意外な展開などについてお話をうかがいました。日々、発達障がいの子どもを持つ保護者からの相談、講座の企画運営など積極的に活動している春日さん。背筋がすっと伸びた涼やかなたたずまい。明るい話しぶりはとても魅力的です。ところが…。
春日 実は私、ものすごくネガティブな性格なんです。
コサイト え?
春日 もともと、どちらかというと、神経質に抱え込むタイプなんです。でも、一方でじっとしていられない、何か行動をしたくなってしまうという性分も持っていまして(笑)。
コサイト なんだか、真逆な感じですね(笑)
春日 抱え込みきれなくて、正直、うつ状態になっていた時期もあります。でも、誰かに相談するとか、親の会に行くとか、とにかくアクションを起こしたおかげで、気持ちを切り替えることができました。
コサイト そ、そういう性分でラッキーでしたね(笑)えーと、直感なんですけれど、春日さんは困っている人を放っておけないというところがありそう。
春日 あります〜。だからこの活動をしているんだと思います。
「子育てが苦しい」という訴え
コサイト ところで、どのような相談が多いですか?
春日 本当にいろいろなんですけれど…、多くは相談にいらっしゃる保護者の方がご自分を責めていることが多いですね。「自分の子どもなのに、子育てが苦しい、可愛いと思えない」とおっしゃる方も。
コサイト 私自身も、同じような思いをした経験はあります。特性がはっきりしているほど、その苦しさは強いのでしょうね。想像ですが。
春日 誰もが第一子は子育ての初心者ですから。親だけど、まだ親になりきれていないというか。そこにいろいろな不安が次々にふりかかってくると、もう本当に子どものことをかわいいなんて思う余裕などなくなります。そして「私って、母性のないひどい母親なんだ」と思ってしまう。
コサイト 母性…ですか。
春日 「母親なら母性は持っていてあたりまえ」というイメージってありますよね。でも多分それは思い込んでいるだけではないかと。
コサイト 人によって感じ方はそれぞれかもしれません。
春日 親は子どもといっしょに成長していくものだとも思いますしね。
当事者同士の支え合い
コサイト 協会では「茶話会」も開催していますね。
春日 毎月第1水曜日にやっています。当事者家族が集い、そこだけの話としておしゃべりをするクローズな会です。「今、こんなことで大変なんです」と切り出すと、ちょっと先輩のママが「ああ、それはね…」と自分の経験を話してくれたり。日頃、ため込んできたものを、茶話会で吐き出して気持ちをリセットする場にもなっています。
コサイト 当事者同士の支え合い、ですね。子どもの年齢もいろいろですか?
春日 はい。小さいお子さんから社会人まで幅広いです。茶話会ではちょっと先を行く先輩の悩みを知ることもできますから、それとなく先が見通せることもあります。「子どもがその年齢になったら、そんなこともあるんだな」ということを頭に入れておくだけでも、勉強になるのではないでしょうか。
コサイト もしかして…茶話会を主催している春日さんも、勉強になっているのでは?
春日 あはは、そうなんです〜。回り回って、自分のためにやっているところもあったりして。
コサイト それから、積極的に「エール」という会報も出していらっしゃいます。
春日 年に4回発行が目標ですが、今は年2回ぐらいしか出せていなくて。でもすごく大事な活動の1つでもあります。内容は会の活動の報告や、発達障がいを理解するための情報などです。直接こちらに来られない方たちに対しても、何らかの形で発信していきたいのです。
コサイト 存在は知っていても、実際に行くまでに時間がかかる方もいらっしゃるでしょうしね。
春日 そうなんです。実際、ずいぶん前に作った「エール」を握りしめて茶話会に来てくださった方がいらっしゃるのです。お持ちになったのは、もう4、5年も前に発行したものでした。その方は、当時「行ってみたら」と勧められたそうなのですが行けなくて、それが最近になってようやく…
コサイト 来てくださったんですね!
春日 そういう人のためにも、紙ベースのものが必要だと考えています。
助けてもらった町で活動したい
コサイト ところで調布で活動しようと思った理由は?
春日 子どもの発達障がいがわかり、辛い気持ちだったころ、ここには手を差し伸べてくれる人がいました。というか、気づいたらいろんな人にサポートしてもらっていたんです。運が良かったのだろうと思います。精神的にとても助けられました。
コサイト だから調布で。
春日 居心地がよくて。出身は調布ではありませんが、この先もずっと調布に根を張って生きていきたいと思えたのです。
コサイト そんな思いが、地域で子育てに悩んでいる人に寄り添いたいという気持ちにつながったのでしょうね。
お話が楽しくて、取材だというのにすっかりのんびりしてしまいました。帰り際、「息子のことでいろいろな経験はしたけれど、それは決して残念なことではないんです。私はすべての経験があってよかったと本気で思っています。これからも、もちろん悩み苦しむ事はあると思いますが、息子が私のところへ来てくれたことに、今は心から感謝しています」
と話してくださいました。
きっと息子さんや地域からたくさんの気づき、宝物をもらったことでしょう。そしてだからこそ春日さんは、これからも悩めるママ・パパたちに寄り添ってくれるに違いありません。
(撮影・楠聖子 取材・竹中裕子)
春日佳奈(かすが・かな) 一般社団法人発達心理ライフケア協会代表理事。認定心理士、自閉症スペクトラム支援士。「ちょっとでも気になることがあったら、ぜひご連絡を」(春日さん)