絵本の読みきかせのボランティアグループ「ぶっくぱぁく」。インタビュー前編では、小学校での読みきかせから始まり、カフェaonaでの読みきかせ(不定期開催)など現在の活動に至る経緯をうかがいました。
「絵本が好き、読みきかせが好き、喜んでくれる子どもたちが好き」という関口正子さんと八町綾生さん。小学校では1年生から6年生までと年齢は幅広く、子どもたちの様子もさまざまだそうですが…。
八町 私たちが活動を始めた小学校では、6年生まで全てのクラスで読みきかせを行っています。高学年になっても読みきかせが必要なのか…と感じる人もいるかもしれません。確かに低学年の頃のように、無邪気に喜んで聞いてくれるというわけではありませんしね。
関口 でも、高学年だからこそ読んでほしいなと思える、少し複雑なストーリーの絵本も世の中にはたくさんあるんです。日頃絵本を手にしない年齢だからこそ、こういう機会に知ってもらえたらいいなと思います。自分で手に取る機会はないだろうから、おせっかいなおばちゃんが持って行って「こんな絵本もあるよ」って。
コサイト 「おせっかいなおばちゃん」がやって来る!いいですね〜。
八町 小学校の読みきかせは15分と時間も短いので、ボリューム的にも絵本がちょうどいいのです。
関口 もちろん、絵本ではなくいわゆる普通の本を朗読する人もいるし、星新一のショートショートなど短編を読む人もいます。小学校ではいろいろな保護者が関わりますから、選ぶ本もいろいろ。1年を通して、その子の感性にちらっとでも引っかかる絵本や物語があれば、それでいいと思います。
コサイト 絵本選びは大変そうですね。低学年と高学年ではずいぶん違うでしょうし。
関口 たとえば「王さまライオンのケーキ はんぶんのはんぶん ばいのばい のおはなし」(作・絵 マシュー・マケリゴット/訳 野口絵美/徳間書店)という絵本は、ある程度算数を理解していないと、楽しめないお話ですから、高学年向きだと思います。
八町 すごく深いお話しなんですよ!
関口 実は…家でこの絵本を読む練習をしていたときのことです。クライマックスのところで練習を一時中断して他の作業をしていたら、近くでテレビを見ていた高校生の息子が、おもむろに「で、続きは?」って言うのでびっくりしたというエピソードがありまして。ああ、聞いていたんだ、高校生の息子でも気になるストーリーなんだなあって(笑)。
コサイト あはは、高校生の息子さんも気になる結末とは…。ひとくちに絵本といっても、いろいろあるのですね。
家庭での読みきかせは…?
コサイト ところで、お二人はそれぞれ、3人のお子さんのお母さんでもいらっしゃいます。ご家庭でもずいぶん読みきかせをしたのでは?
八町 少しはしていましたけれど…。絵本を読まない時期もありましたね。うちの子どもは絵本が好きな子どもとして育ってはいないと思います。
コサイト そうなんですか!?
八町 どちらかというとテレビの方が好きでした(笑)。こういう活動をしていても、家庭では実はいろいろだったりします。
関口 「ぶっくぱぁく」の活動は主に小学校でクラス単位、いわゆる「集団」に対する読みきかせですから、家庭とは少し違いますしね。まあ、家によっていろいろだと思いますよ(笑)。うちも下の子は仮面ライダーもので育ちましたし(笑)。
コサイト 「いい絵本」を選ばなくてはという思い込みがあるかもしれませんが、家庭での読みきかせはあまり肩肘はらなくてもいいのかもしれないですね。
関口 少なくとも、読んであげるお母さんが無理して嫌いな本を読む必要はないと思います。すぐれた絵本かどうかではなく、読む人が好きかどうかでいいと。もちろん、小学校での読みきかせなど集団が相手の場合は、内容をしっかり吟味していますよ。そのためにも自分たちなりに情報にはアンテナをはり、ときには学び、メンバーで共有し、話し合っています。
「宝物のような言葉」をもらって
コサイト お二人はこれまで、多くの子どもたちと出会ってきたと思うのですが、とくに印象的だったエピソードなどありましたら教えてください。
関口 たくさんの出会いがあります。子どもたちからもらった、宝物のような言葉もたくさんありますよ!
コサイト たとえばどんな言葉なのでしょう?
関口 「きみの町に星をみているねこはいないかい?」(作・絵 えびなみつる/架空社/絶版)という絵本を、小学校の図書室で読みきかせたときのことです。読み終わった後で低学年の女の子が私のところへ来て「あのね、私さがしてみる!星を見ているねこ」と言ってくれたんです。
コサイト なんてかわいい!心に響いたのでしょうね、きっと。
関口 ああ、読んでよかったと心から思いました。その女の子の言葉があることから、この絵本は私の中のトップ10に入りました(笑)。でも、高学年の子どもたちに読んで聞かせたら、終わったとたんにそんな猫は「いません」って言われちゃったけれど。
コサイト あら〜。
八町 年齢によって受けとめ方は変わりますが、それでいいと思っています。気に入るものもあれば、そうでないものもあります。
関口 ここ(カフェaona)の読みきかせは、未就学の子どもたちが中心です。先日「しろくまのパンツ」(作・絵 tupera tupera/ブロンズ新社)を読んだときのことです。終わってから女の子のお父様が私たちのところへやってきて「あの…娘がさっき読んでくださった本をどうしても欲しいと言うのですが」と、声をかけてくださいました。絵本のタイトルをお伝えしたのですけれど、お子さんが気に入ってくれたことがわかり、すごく嬉しかったです。
コサイト 絵本との出会いの場でもあるのですね。
▲この日はエプロンシアターも!
関口 こんなこともありました。乗り物好きの子どもには人気の「しゅっぱつしんこう!」(作・絵 山本忠敬/福音館書店)を読んだときのことです。その絵本が大好きでずいぶんと読み込んでいる様子のお子さんがいらっしゃいました。読みきかせ中も「そこそこ、その看板の文字も読んで」「もう一回!」「次は問題を作ってぼくに出して」などと言うのです。
コサイト 大好き過ぎて、暗記するぐらい覚えている…。
関口 内容は全部知っているけれど、大好きな絵本を、ここで読んでもらうのもまた嬉しいのでしょう。
コサイト 年齢の小さい子どもたちが相手だと、ちょっとしたやり取りも楽しいですよね。
八町 「おにぎり」(作 平山英三/絵 平山和子/福音館書店)や「くだもの」(作 平山和子/福音館書店)など、食べ物系の本も小さいお子さんたちは喜んでくれます。私たちが「さあ、召し上がれ」と読むと、ここに来ている子どもたちはみんな、食べる真似をしてくれるんですよ!
関口 かわいくて、嬉しくて、たまらない瞬間です。
八町 私たちは小学校での読みきかせ歴が長いので、未就学のお子さんたちに読みきかせることが、とても新鮮なのです。私はカフェaonaでボランティアとして関わることができて、本当によかったと思っています。
コサイト カフェに来ている子どもたちも、読んでもらって嬉しいと思いますよ。
関口 私たちは「読んであげる」なんて思っていません。自分が楽しいから「お願い、読ませて!」という感じです(笑)。
コサイト あはは、本当に好きなんですね。
絵本のこと、読みきかせのことを本当に楽しそうに語るお二人。ああ、これはこの方たちの趣味なのだ、楽しみなのだということがよくわかりました。大人が本気で楽しんでいるから、子どもたちも楽しいのかもしれません。毎日のわが子への読みきかせは、疲れている日などはちょっとおざなりになることもありますね。調布にはこんな素敵な「おせっかいなおばちゃん」たちが活動しています。機会がありましたら、ぜひ一度お出かけくださいね。
読みきかせボランティアグループ「ぶっくぱぁく」の代表、関口正子(せきぐち・まさこ)さん(左)。2男1女のママ。メンバーの八町綾生(はっちょう・あやみ)さん(右)。3女のママ。「とにかく、絵本を読みたい、読ませてください!(笑)」とお二人。