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いっしょに育て隊

第43回
東京慈恵医科大学附属第三病院小児科教授 勝沼俊雄さん
命を守る!食物アレルギー「ホットライン」生みの親(前編)

2017年9月19日 公開

子どものアレルギーは確実に増えていると言われる現代。アレルギーを持つ子どもや保護者は、さまざまな不安や気がかりを抱えています。そんな人達に寄り添い、日々の臨床に向き合うドクターが、東京慈恵医科大学附属第三病院(以下、慈恵医大第三病院)小児科の勝沼俊雄先生です。

 

2012年12月20日に、調布市の小学校で起きた学校給食の誤食事故では、当時小学校5年生の女の子の尊い命が失われました。この事故を受け、慈恵医大第三病院としての発案で実現したのが、学校・保育園など教育や保育の現場と小児科医を直接つなぐ「アレルギー対応ホットライン」。

 

このホットラインを発案し、実現したのが今回ご紹介する勝沼先生。地域や子どもたちへの熱い思いを持った、熱血ドクターです。今回はそんな勝沼先生にお話を伺いました。

 

小児科医を目指したわけ

 

コサイト 先生がお医者さんになろうと思ったきっかけは?

 

勝沼 子どもの頃、野口英世の伝記を読んで影響を受けたことです。医学者として…というよりは、野口英世の「不屈の闘志」、ハングリー精神に惹かれまして。

 

コサイト ハングリー精神と今のお仕事はつながっているのですね。

 

勝沼 僕は研究が好きなので大学に残りました。ここは医学部のある大学として大きくはないし、研究費にも決して恵まれているわけではありません。けれど限られた予算でもアイデアを出して、大きく実らせていくことはできる。十分、世界に伍していけると思っています。

 

コサイト 先生の瞳の奥に炎が見えるようです!

 

勝沼 ははは、蚊取り線香のような小さな火ですよ(笑)。

 

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コサイト ご謙遜を〜(笑)。小児科を専門にされたのは?

 

勝沼 医学は大きく外科などの「治療学」と内科などの「診断学」に分かれます。僕は研修医としていろいろな科を経験をするにつれ「治療学」に関わりたいと思うようになりました。しかし外科の世界はどうも自分にはしっくりこない。「小児科」に出会って「これだ」と思ったのです。

 

コサイト といいますと?

 

勝沼 子どもはみんな「生きよう」としていて、生命のベクトルが上を向いています。一見重症に見えても、少し医療的に支えることで、ぐんぐん回復することがある。治っていく病気も多いのです。

 

コサイト 大人とは違うのですね。

 

勝沼 小児科特有の「お節介」なところも、僕の性格に合っているとも思います。診察して薬を処方して終わりではありません。家庭でのケアや薬の飲み方、塗り薬の使い方などを丁寧にアドバイスしたり…。

 

コサイト 確かに、お節介かも!

 

勝沼 それから、子どもを救うためには、親も楽にしてあげることも大切です。

 

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コサイト お母さんはみんな、すごく頑張っていますから。

 

勝沼 アレルギーの場合、お母さん自身が自分をすごく責めていることが多いので「お母さんのせいじゃないよ」って伝えたり。それだけで堰を切ったように涙が溢れてしまうお母さんも少なくありません。

 

コサイト お母さんも気持ちが少し楽になりますね。

 

命を救う「ホットライン」

 

コサイト 勝沼先生は、調布市と狛江市を対象とした「アレルギー対応ホットライン」を発案し、形にしたと伺っています。

 

勝沼 はい、僕たちが考えました。食物アレルギーの事故を防ごうと、現場ではマニュアルを整え、研修を行っています。しかし緊急時に「エピペン(R)」(医師の治療を受けるまでの間、アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤・アドレナリン自己注射薬)を現場の人が速やかに注射できるかというと、かなりハードルが高いと思います。

 

コサイト かなり勇気がいるでしょうね。「打って何かあったらどうしよう」と、不安になり、迷うことは容易に想像できます。

 

勝沼 でも、もたもたしているうちに、症状がどんどん進んで手遅れになってしまったら命に関わるんです。そんな現場の負担を減らすために、専門家である僕達ができることをと考えて作ったのがホットラインです。

 

コサイト 素晴らしいですね!もう少しその仕組みを教えてください。

 

勝沼 慈恵医大第三病院の小児科医が、月曜日から土曜日の9時から17時までの間、ホットライン専用の電話を交替で携帯しています。教育や保育などの現場で、アレルギーやアナフィラキシーの症状が出て、少しでも判断に困ったときには、現場の先生が直接ホットラインに電話をして、小児科医から指示を仰ぐことができるというものです。

 

コサイト 実際に、調布市では事故で女の子が亡くなっています(調布市HP参照)。二度とそのような事故を起こさないためにも必要な仕組みですね。

 

勝沼 僕はね、あの事故において誤食は防げなかったかもしれないけれど、エピペンを適切に打つことができていたら、命は救えたのではないかと思うのです。亡くなった命はどうしたって帰ってきません。でも、亡くなった女の子…沙清ちゃんの死は絶対に無駄にしてはならないと思っているのです。

 

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全国では初めての取り組みとしても注目された「アレルギー対応ホットライン」。インタビュー後編では、このホットラインができるまでの経緯や、実際に運用が始まってからの状況、調布という町への思いや地域連携などについてのお話もご紹介します。後編もぜひご期待ください。(撮影・楠聖子 取材・竹中裕子)

執筆者

勝沼俊雄(かつぬま・としお) 東京慈恵医科大学第三病院小児科教授。アレルギー専門医として、日々の診療にも積極的に関わっている。調布市や狛江市の学校職員向け「アレルギー研修会」では講師も務める。大学生と高校生、2人の男の子のお父さん。

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