調布市佐須町の田んぼで「田んぼの学校」を運営している尾辻義和さんへのインタビュー後編です。前編では26年前に活動が始まった経緯や、私たちが日頃から親しんでいる野川についてお話を伺いました。異常気象による影響が懸念される今、豪雨の後の野川は水量が増し、日頃はのどかな川辺の様相が一変します。自然に親しむ活動をするほどに、環境問題へも意識が向いていくものですね。
さて後編では、佐須地域にある田んぼの歴史的背景や、これからを生きる子どもたちへの思いを聞きました。
「由緒ある」佐須の田んぼ
尾辻 今はこのあたりの田んぼも、ごくわずかになってしまいました。けれど、かつてこのあたりは一面が田んぼだったと言われています。深大寺の坂を上がったところにある青渭神社から見下ろす風景は一面が田んぼだったという時期もあったようです。広大な田んぼを国分寺崖線と野川の水でまかなっていたということになりますね。安定して水を供給することができる、非常に優良な耕作地帯だったと言えるでしょう。
コサイト 用水路を流れている湧き水は、ずっと昔からの流れなのですね。
尾辻 深大寺とも深い関係があると思います。深大寺は733年に始まったと言われています。それはつまり、当時あれだけの規模のお寺を作ることができるほど、このあたりが豊かな土地だったということが想像できます。そう考えると僕たちが米を育てている田んぼは、少なくともゆうに1000年以上前からあったといえるのです。
コサイト そんな歴史ある田んぼだったとは…!
尾辻 だからこそ、この先もずっと守っていきたいと思います。
コサイト 親子対象の「田んぼの学校」では、尾辻さんたちの思いも伝わっているのでしょうね。
尾辻 子どもたちには自然を体験してもらいたい、一緒に参加する保護者の皆さんには環境問題についても目を向けてもらえたらと思います。まずは「この環境で子どもをずっと遊ばせたい」と感じることから、少しずつでも関心を持ってもらえたらと。
コサイト 「田んぼの学校」ではどれくらいお米が収穫できるのですか?
尾辻 田んぼの広さは三畝(せ)で、収穫できる米は、おおむね110キロ(二俵弱)です。そのうち三分の一がもち米で、三分の二がうるち米。「田んぼの学校」で秋に行う収穫祭では餅つきをしてみんなで食べます。うるち米は参加メンバーで分けています。
コサイト いいですね〜!田植えしたお米を食べることができるなんて貴重な体験ですね。
子どもは何もなくても遊べる
コサイト 先日、田植えの様子を見学させていただいたのですが、全身泥だらけになっている子もいれば、田んぼに入るのを躊躇しているような子もいました。子どもたちも個性がいろいろですね。
尾辻 慣れない子は、すぐには入れないものです。でも何かの拍子に入れるようになることもあります。無理に引っ張り込むのではなく、子どもの好奇心をくすぐるような何かがあれば、勝手に入ってくるものですよ(笑)。
コサイト 親としてはせっかく連れてきたのだから、参加してほしい、泥んこになって楽しんでほしいと思ってしまいますけれど。
尾辻 子どもは興味を持たない限り、やりませんよ。子どもって目がキラリと輝く瞬間があるでしょう。そういう輝きを見逃さないでほしいと思いますね。せっかくの好奇心を摘み取っていると、子どもも「知りたい」という思いを持たなくなってしまうから。
コサイト おっしゃる通りですね…ドキッとします。
尾辻 焦らず待ってあげてほしいです。でも、田んぼは一度入ってしまえば、あとはもう全身泥んこになって遊べるようになるんです。あれはすごいね!きっと気持ちがいいだろうな。
コサイト 遊び道具などなくても、あれだけ楽しめちゃう。
尾辻 子どもはいつの時代も変わらないよね。おもちゃなどなくても遊べるのが子どもです。自分で触れて感じて勝手に遊び始める…そういう体験の機会こそが大事だと思います。
(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)
撮影協力:Gallery&Cafe Warehouse Garden(柴崎)
尾辻義和(おつじ・よしかず) 「野川で遊ぶまちづくりの会」代表。「田んぼの学校」校長。北海道出身。中学生になってから東京で暮らし始める。プログラミング関連の会社へ就職。その後結婚を機に調布に住み始めて48年。他にも地域のさまざまな活動に、積極的に参加している。