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2020年から導入される、小学校の新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」をうたっています。その土台となる「好奇心」は入学前の幼児期に、しっかり育んでおきたいものですね。
子どもの「これ何だろう?」という疑問や気付きは、まさに「好奇心の芽」。それをいかに育てていけるかは大人の関わり方次第でもあります。調布市にあるパイオニアキッズ菊野台園では、そんな子どもたちの「知りたい」気持ちに寄り添う保育を実践。このコラムではそんな様子を5回にわたってご紹介し、ご家庭でも参考になるような、対話のヒントをお伝えしてまいりました。
多摩川の水はどこへ行くの?
コラム初回と2回目でご紹介した「水」の活動も昨年春から始まってそろそろ1年。園の近所を流れる野川でお散歩をするうちに「この水はどこから来たのかな」という素朴な疑問から、水源の一つである「カニ山」や「都立農業高校の神代農場」、国分寺の水源にまで足を伸ばしたり、野川が流れ着く先の多摩川(合流する二子玉川あたり)へ出かけたりするうちに…
「多摩川の水はどこに流れていくの?」
そんな声が上がるようになりました。調べてわかったことは「多摩川は海に続いている」こと。
「砂浜があるのかな?」
「海と川はどんなふうにつながっているのかな?」
知りたいことはたくさんあります。たとえば生き物の様子、川や海の広さ、砂浜や波はどうなっているのか…他にもいろいろ。多摩川の河口といえば調布からはかなり距離があります。でもやっぱり「見てみたい!」という強い気持ちは揺らぐことがありません。先生たちは子どもたちの思いを受け、多摩川河口へ出かけることになりました。
見たことがないほど広い「多摩川」
保育園から京王線に乗り「京王稲田堤」駅でJR南武線に乗り換えます。終点の川崎駅で、京急大師線に乗り、4駅目にある「東門前駅」で下車。多摩川方向へ歩いていきます。
土手の手前に、多摩川の案内図を発見!一同テンションがあがります。「ここが調布で、ここが前に行った野川と多摩川が合流する二子玉川で…」と指さしながら話す先生。ずっと調べてきた多摩川のことだから、子どもたちの目はキラキラ。
土手を上がると、そこにはこれまで子どもたちが見たことのないほど「大きな川」がありました。
先生「潮の匂いがするような気がしない?」
子ども「う〜んと、ちょっぴり感じる!」
子ども「うわ〜もうここが海なんじゃない?」
先生「ふふふ、広いけれどまだ川ですよ」
子ども「これ何かなあ?」
先生「大師の渡しって書いてある…ここには昔、向こう岸に渡る舟の船着き場があったみたいね」
子ども「わかった!まだ橋がなかったから、舟で渡っていたんだ!」
さあ、ここから河口までは3キロの道のりです!多摩川の右岸(川崎側)をひたすら進むのです。
▲「水の活動」にずっと同行している光橋翠さん。
大規模な土木工事が行われていて、機材などがたくさん置かれている河川敷は、子どもたちが知っている多摩川とはずいぶん違う様相です。同行の翠さんは「工事をして人間は便利になるけれど、自然は壊れるね」と子どもたちに語りかけます。現実もしっかり見て、考えてほしいという思いもまた伝えていきたいことですね。
河口まで2.5キロのところまでやってきました。
「あ!飛行機だ!」
遠くに羽田空港が見え、飛行機が次々と離発着しています。
河口周辺の生き物たち
河口付近の生き物たちについての案内板を見つけました。
子ども「ここにもオナガガモがいるんだって!」
先生「今日、会えるかなあ」
いつもの野川と今日の多摩川ではずいぶんと環境が違うようだけれど、日頃から親しんでいる野鳥の姿も見ることができるなんて、自分たちが知っている野川や多摩川との「確かなつながり」を感じます。
ヨシ原とトンビとキンクロハジロと
堤防の向こう側にはヨシ原が広がります。
トンビが低空で飛び交っています!遠くに見える水鳥は…近くでカメラを構えている男性に聞いたところ「あれはキンクロハジロだよ」と教えてくれました。
▲堤防には河口までの距離が100mごとに表示されています。
あと1.6キロで河口というところまで来たあたりにある公園に「展望台」がありました。「わ〜い!」と、思わず駆け上がる子どもたち。
▲公園の広場では思い切り走り回る子も。
保育時間内に遠出をしている関係で、あまり時間はありません。河口目指して再び歩き初めました。道路の表示には「この先行止まり」と書かれています。
海…だ?
ようやくあと1キロのところまで来ました。道幅も少しずつ狭くなっています。目指す「行止まり」はどんな感じなのか、期待が膨らみます。
このあたりは、コンクリートの堤防もなく、美しいオナガガモの美しい姿が見えました!河原の木にはスズメとシジュウカラも。たくさんの野鳥に会えたことはすごく嬉しいのですが、残念だったのはゴミがたくさん落ちていたこと。子どもたちも複雑な表情です。いつもなら率先してゴミを拾いますが、時間が足りずあきらめました。
そしていよいよ河口まであと400メートル。ヨシの間に見える河原は細かい砂のような感じです。
子ども「海が近いのかもしれない!」
進んでいくと…この日のゴール地点である「行止まり」が見えました!やっと多摩川河口に到着です。
海と川の境目はどこ?
子どもたちは「わ〜海だ!」「やったやった〜♪」と大興奮…ではありませんでした。表情からは
「ふう〜ん」
「海…か?」
という、そんな感じにも見えます。ここまで歩きながら見てきた広い川幅がもう少し広がっただけのようにも思えます。でも確実にそこから先の海は広くて、やっぱり海なんだと思えた子もいたかもしれません。
子ども「海なのかな」
子ども「波の音がするよ」
子ども「どこまでが多摩川なの?」
ぽつりぽつりと子どもたちの口から言葉が出ます。ゴールである多摩川右岸の突端には小さい小屋が一つ。そこから見える「海」は子どもたちが当初イメージしていた、いわゆる海水浴場のような典型的な「海」ではありませんでした。
▲海側からの小さな波。
翠さんの発案で、多摩川右岸の突端に子どもたちが一人ずつ交代に立ち、河口の先に広がる海を眺めることにしました。それぞれ、どんな海が見えたかな。
多摩川の出口を、自分の目で確かめた子どもたちの表情は満足そう。寒くて大変だったけれど、来ることができてよかったね。帰り道、カワウやコサギ(写真下:よく見ると黄色い靴下をはいていますね!)にも会うことができました。
今日行ってみてどうだった?
電車を乗り継ぎ、保育園に戻ったのは夕方近く(途中、公園でお弁当を食べました!)。園に戻っておやつを食べた後、「振り返りの会」がありました。
先生「今日は、行ってみてどうでしたか?」
子ども「オナガガモがたくさんいてびっくりしました」
子ども「トンビが見られてうれしかった」
子ども「貝殻があってうれしかった」(拾うことはできませんでしたが)
子ども「野川にはコサギがいるけど、海にもいるとは思わなかったから、びっくりしました」
子ども「飛行機が飛ぶところが見えてよかった!」
先生「いろんなものが見られてよかったよね。海はどうだった?」
子ども「波のかたちが、かいだんみたいに…だんだんになってた!」
子ども「砂浜があったから海がちかいとおもった」
子ども「思ったより、川が大きかった」
先生「野川とは違って広かったよね〜」
子ども「野川にあるのは石で(今日見た)多摩川にあるのは…砂みたいだった」
先生「海が近いから、砂みたいだったのかな」
子ども「もっとむこうには工場があった!」
子ども「むかしは舟があったんだよ」
先生「向こう岸に渡る舟があったと書いてあったね」
最初はかに山で湧き出した水が野川に流れて、多摩川に流れてどんどん流れが大きくなり、やがて海に流れ出て行く。子どもたちは1年を通して水がどこをどんなふうに流れていくのか、行って見て、感じることができました。
この日最後に、保護者の方たちがお迎えにくるまでのひととき、みんなは絵を描きました。
1年をかけて水を通した活動をしてきた子どもたちも3月には卒園です。多摩川の河口まで行ったし、やることやりきったと思ったら…
子ども「こんどは、多摩川の始まりのところに行ってみたい!」
そんな声が上がりました。多摩川の源流をたずねて笠取山へ?それはさすがに大変なのではと思いましたが、保育園の先生たちはこう言うのです。
「河口に行ったら源流にも行きたいよね。じゃあ…考えてみましょう」
これには驚きました。子どもの「やりたい」気持ちにできるだけ応えたいという心が伝わる一言ですね。そして後日、笠取山にも近々出かけることが決まったとのこと。
4月からは1年生。学校での生活は保育園のそれとはずいぶん違うかもしれません。けれどここまで培ってきた「学ぶ力」「考える力」は決して無駄にはならないはず。ますます楽しい小学校生活になりますように。(撮影・赤石雅紀 取材・文 竹中裕子)
パイオニアキッズ菊野台園(ぱいおにあきっずきくのだいえん)
調布市菊野台の住宅街に立つ、認可保育園。乳児期から ニュージーランドの教育省から正式に許可を得て、ナショナルカリキュラム「テ・ファリキ」を活用し、自らの意志で遊びを決めてそれぞれの部屋へ行く「コーナー保育」や「異年齢保育」が行われています。また、北欧で盛んな「森の幼稚園」の概念も取り入れ、積極的に戸外活動を行っています。