インタビュー前編でご紹介したとおり、車椅子ダンサーとして、2016年のパラリンピック・リオ大会閉会式、そして2021年の東京大会開会式で情熱的なパフォーマンスを披露したかんばらけんたさん。調布市などの小学校では、講演会を通して子どもたちとの交流も深めています。初めは壁を感じていても、ダンスパフォーマンスを披露するとその壁は一気に氷解するのだそう。
かんばら 心の壁っていうか…おそらく障害がある人に慣れていないだけのことだと思うんですよね。たとえば今日もここ(インタビュー会場・カフェaona)へ来てすぐ、何回も「手伝いましょうか」と言われました。
コサイト あ…!
かんばら あ、今日はとくに何かを感じたわけじゃないですよ!でも、そういうことが積み重なるとしんどくなる。もちろん手伝ってほしいときもありますが、「大丈夫です」とひたすら言い続けることもあって、そういうときに「慣れていないんだな」と感じます。たぶん、子育てしている人たちも必要以上に「助けましょうか」と言われたり、その逆だったり…少し似ているかもしれません。
コサイト ここにはお食事で何度もいらしているのに、つい「段差大丈夫ですか」とか…。ほんと、慣れていないのだと思います。
かんばら これは僕が小学生の頃のことですが、あるとき街を歩いていたら知らないおじさんから急に「おい、障害者」と指をさされたことがありました。知らないおばさんに「かわいそうに」とお金を渡されたりしたこともあります。差別的なことと考えずにやっているのかもしれませんが、小学生だった僕は「なんだろう」と思うわけです。大人になってからも、まったく知らない人から差別的な言葉を投げつけられることはありました。
コサイト 傷つきますよね。
かんばら もしかしたら…そういう人たちは差別的な言葉を口にしてしまう人は、もしかしたら自分より弱い人を探して攻撃しているのかもしれない…。大人になった僕はそう思うことで、やるせない気持ちを処理できるようになりました。でも子どもの頃に受けた差別を、これからの子どもたちが同じような体験をするかもしれないと考えると、それはとても辛いことです。
コサイト 攻撃してしまう大人も、実は助けがほしいのかもしれませんね。
かんばら だからこそ、未来を生きる子どもたちには自分が困ったら「助けて」と言っていいんだよと。みんな違って当たり前、違うからこそ面白いということを伝えていきたいです。
コサイト 多様性を認める社会になれば。
かんばら 今「多様性が大事」と言われていますが、実際に「多様性があっていいな」と感じられる体験をしている子どもは少ないと思います。だから、僕を通してそういう経験をしてもらえたらいい。人と違うことがコンプレックスにならないようにね。僕は、小学校での講演活動は障害者のためにやっているのではなく、その子やその子の友達関係がよくなればという思いでやっています。
コサイト かんばらさんのお話は、きっと子どもたちにも響きますね。
かんばら 小学校からは「障害理解」の授業として呼ばれることが多いですけれど、僕はただ「友達と違うことを認めよう」「自分も困ったら助けてもらおう」とか、そういうことを伝えたいです。
楽しいことをやればいい
コサイト 「慣れていない」私だからそう感じたのだろうと思いますが、かんばらさんのご実家は、子ども部屋が2階にあったというエピソードに驚きました。
かんばら 僕の家族にとっては普通なんですけどね(笑)。だって(2階建ての一軒家の場合)子ども部屋って、だいたい2階にありますよね。それだけのことだと思います。物心ついたときには逆立ちもできていたし。親から「自分でやりなさい」と言われた記憶もありません。今思えば、階段を手で上がったり下りたりしていたことが、強い上半身を作ることになり体のベースになっていると思います。
コサイト 強靭な上半身があったからこそ、他には類を見ないダンサーとして活動しているわけですね。
かんばら 小学3年生のころ、一生歩けないと母親から聞かされました。その時はたくさん泣きましたが、少しずつ「この体と付き合っていくしかない」と前向きにあきらめ、歩くことにこだわらないと決めました。ゲームとか楽しいこともあるから、まあいいかな、と。中学生ごろまで…6〜7年かけてようやくそういう心境にたどり着いたんです。
コサイト できることを考えるように?
かんばら いえ「できるように」ではなくて、やって楽しいことをすればいいと思ったんです。それに「できない」ことだって、道具に頼ったり、違うルートを使えばできることもあります。たとえば洗濯物を干すとき、僕は高い位置にある物干しには届きませんが、ハンガーをつなげて物干しの位置を低くしたり、畳んだ洗濯物を運ぶときにはスケードボードを使ったりしています。
コサイト アイデア次第で、できることもあると。
かんばら 目標が達成できるなら、方法が違ってもいいですよね。違う方法、ルートだから人に感動を与えたり、面白いと思ってもらえたりするんじゃないかな。
コサイト 確かにそうですね。お家では家事も?
かんばら たとえば電球を変えるなど、僕にはできないこともありますが、そこは夫婦で話し合って分担しています。僕はゴミ出しと洗濯物の係なんですけれどね、僕のルールでやるからあまり口を出さないでと言っています(笑)
コサイト つい相手の家事にケチをつけがちで…(笑)子育ても積極的に?
かんばら うーん。あえて「子育てしています」って言うのはしっくり来ないんですよね。たとえば妻が料理をしていて、ここに離乳食があれば食べさせるし…そういう感じですかね。ただ出産直後は意識的に、妻が家事をしなくてもいいように、できるだけ家事は僕が引き取るようにしていました。ご飯が作るのが大変なら何か買ってくるとか。オムツ替えやお風呂に入れるといったことはやりましたけど。
コサイト 家事を担当してもらえると、出産後はとても助かると思います。子育てで「大変だな」と思うことはありますか?
かんばら 2人の子どもがいますが、たとえば子どもたちが揃ってギャン泣きしているときとかは「あ〜っ!」ってなりますね。あと、寝かしつけようとして部屋を真っ暗にしているのに、娘が歌いながら全力で踊りだしたりすると「いつ寝てくれるのか」と絶望的になったり(笑)。
コサイト それは絶望的な…(笑)。お子さんたちはお父さんのダンスを見ることは?
かんばら 4歳の娘は僕のダンス映像を見て真似をするんですよ。逆立ちもどきをしたり、手押し車を横に倒して車輪の上に座ってくるくる回る真似をしたり。
コサイト(動画を見せてもらって)わあ、かわいい!
かんばら 最後は一緒にポーズ!
コサイト これは嬉しいですね〜。では最後に一言。これからのご活動について。
かんばら 子ども向けのイベント出演、講演は引き続きやっていきたいと思っています。そして、まだまだダンスのスキルを高めていきたい。他のジャンルも経験して作品の要素に入れていけたらと思っています。
コサイト 今日はこのあと、何とダンスを披露してくださいます。写真でその迫力、ムードをお伝えできたらと思います。まずはここまでのお話、ありがとうございました!
取材会場:カフェaona
撮影:楠聖子
かんばらけんたさん 車椅子ダンサー。調布市在住、2児の父。2016年にはリオパラリンピックの閉会式に、2021年秋に開催された東京パラリンピックでは開会式に出演。調布市内の小学校でも講演会を行ったことも。