<教えてくださった方々>
調布市教育委員会 指導室副主幹 坂口昇平さん
調布市立飛田給小学校校長 山中ともえ先生
調布心身障害児・者親の会 進藤美左さん
「音読のとき、ちゃんと教科書を見ているのに(どこを読んでいるのか)わからなくなる」
「耳で聞いたことは理解できるのに、読むとわからなくなる」
「読み書きに時間がかかる、読み書きが苦手」
「見え方や聞こえ方が、(ふつうとは)違うかもしれない」
小学校入学後しばらくしてから、読み書きに困難を感じる(認知に特徴がある)など、本人がとても困っていることに気づいたとき、親はどうしたらよいのでしょう。
読んだり書いたりすることが苦手な背景には、実は見え方や聞こえ方が人と違うために起きている場合があります。しかし本人は他の人との比較ができないので「自分は頭が悪いんだ」と思い込み、自信を失ってしまうケースが多いのが現状です。
そうならないためにも、学校で適切な配慮をしてもらえるようにしたいものですが、誰に相談したらよいのでしょう。
「まずは担任の先生に相談して、学校での授業中の様子などを聞いてみましょう。担任の先生に聞きづらいようであれば、各学校に配置されているスクールカウンセラーや特別支援コーディネーターの先生に相談することもできます。いずれにしても、まず学校と何らかのつながりを持ち、子どもの状態を理解してもらうことが大事です。学校に対して適切な配慮を求めることができますし、それだけで困り感が軽くなる場合もありますので、まずは相談してみてください」(調布市教育委員会 坂口さん)
本人の困り感に気づき、その子に合った配慮を
読み書きに困難を感じている場合、それはその子の「認知の特徴」であり、その特徴そのものが解消されることはありません。しかし、その子に合った配慮があれば困り感が軽くなる場合はあります。大切なことはそれが「本人の努力不足ではない」ことを理解し、自信を失わないようサポートすることです。
読み書きに困難があると気づくのは多くの場合が小学校に入ってから。公立小学校ではどのように対応しているのでしょう。
「小学校にはいろいろな個性を持った子どもたちが通っています。特性は子どもによって実にさまざま。その子がどんな特性を持ち何に困っているかということを丁寧に理解し対応するよう努めています。コロナ禍がきっかけとなり、調布市ではタブレット端末が小中学校の子どもたちに一人一台ずつ配られました。読み書きが苦手な場合、モバイル端末を使うことで困り感が軽減されることもあります(たとえば板書を書き写すのが苦手なお子さんの場合、モバイル端末で板書を撮影して手元に置き、それを見ながらゆっくり書くといった対応)。とはいえ現状ではまだ十分に活用されているとは言えません。今後は電子教科書(※)などの使用が期待されます。すべての教科書が電子化されるのはもう少し先のことになりますが、電子教科書機能は向上し、特性に合わせた使い方ができるようになっていくだろうと思います」(調布市立飛田給小学校 山中ともえ先生)
現状では、モバイル端末を使って学習をサポートする場合、保護者から依頼があってから検討されています。高学年ごろになると「ポメラ」(デジタルメモ テキスト入力専用機)や「デイジー」を使うこともあります。
また、宿題の量を調整してもらったり、担任がその子の特性を理解して無理をさせないなど日々の学習において配慮するだけでも、困り感が軽くなることもあります。
※ここで紹介している電子教科書とは、電子書籍化された教科書を指しています。紙の教科書を同じ内容が電子化され、さらに「テキストの読み上げ」「本文や図版の拡大」「配色やフォントの変更」など、多様な機能の搭載が可能とされています。
その子に合った支援を行う「校内通級教室」
読み書きに限らず子どものことで気がかり、心配があったときには、保護者であるあなたが学校内で「この人なら話しやすい」と思える人にまずは相談してみるのがよいでしょう。
・担任の先生
・校内通級教室(以下通級)の先生
・特別支援コーディネーターの先生(各学校に配置されている)。
・スクールカウンセラー(各学校に2人配置。必要があれば適切な支援につないでくれる)。
相談するならまずは担任の先生に。どうしても担任の先生に相談しづらい場合は特別支援コーディネーターの先生やスクールカウンセラーに相談してみましょう。
また通級の先生も頼れる存在です。通級とは、通常の学級に在籍しながら、たとえば「お友達とのコミュニケーションに課題がある」「落ち着きがない」「学習に取り組みにくい」「集中することが難しい」といったような子どもたちが利用できる仕組み。在籍している学校の中に設置された通級学級で週のうち1〜数時間移動して、個別に指導を受けることができるというものです。
「調布市には通級の拠点校があり、そこに所属する教員が担当する学校を巡回しています。巡回とはいえ、先生たちはそれぞれの学校にしっかり入り込み指導を行っています。お子さんが通級の対象になった場合、通級の先生は通常学級と連携して指導計画を立てます。同時に保護者とも面談やヒアリングも行い、きめ細かく対応していきます。学校では日々いろいろな事が起こりますので、ときには保護者が担任の先生に伝えづらいこともあるでしょう。そんなときに間に入って調整するのも通級の先生です。必要に応じ、学校以外の専門機関などとつなぐこともあります。通級は複数の教員がチームで対応しているので、もし担当の先生とうまく情報共有できないなと感じたら、他の先生やチームの主任の先生に相談することもできます」(山中先生)
通級以外にも、たとえば吃音や構音障害、言葉が流暢に出ないといった傾向のある子どもも利用できる「ことばの教室」があります。
通級の利用には、必要な審査や手続きがあります。そのため、調布市ではまずは教育相談所への相談が必要です。教育相談所では、その子にとってよりよい支援方法を考え、適切なサポートにつなげていきます。
「子どもが自信を失ってしまわないよう、その子の特性を理解することが大切です。特性は一人ひとり違いますから、合理的配慮もその子に合ったものをカスタマイズする必要があるのです。読み書きなどに困り感があるといっても状況は子どもによってさまざま。学校ではその子の特性をより理解している通級の先生などにも相談にのってもらいながら、担任の先生に、その子の特性や必要な配慮について理解してもらうことが大事です。もし、学校ではなかなか理解してもらえないと感じた場合は、教育相談所に相談してください。それぞれの学校に対して適切な対応を提案し、よりよい学習環境を作るよう尽力します」(教育委員会指導室 坂口昇平さん)
教育相談所では、心理相談員との直接相談や匿名での電話相談も行っています。学習障害に限らず、就学、学校や教育での困りごと、心配事があるときには、ぜひ相談してみてください。
「今の状態」「今の困りごと」に一つ一つ対応する
たとえば子どもが「学校に行きたくない」と言うと、親は心配だしすぐにでも解決したいという思いから「どうして?」と理由を問い詰めてしまいがちです。しかしこれは逆効果です。
「大人でも月曜日はなんとなく憂鬱だったりしますよね。子どもも同じで、案外大した理由がない場合もあるのです。軽い気持ちで口に出したのに「なぜ?」と強く問い詰められるとつい、『◯◯ちゃんに嫌なことを言われた』『先生の授業がイヤ』などと、つい取り繕ってしまうことも。このような場合、ご家庭では『休むときは休んでいい』ぐらいの感じで様子を見たほうが良いこともあります」(山中先生)
もちろん、学校に行きたくない理由はさまざま。その子の特性によるものもあれば、それだけでもなさそうだったり、とても分かりづらいこともあるのだそう。
「子どもの特性は多様かつ複合的なもの。特定の特性がどうこうではなく、その子一人ひとりの状態に合わせた対応を考えていくべきだと思います。たとえば読み書きが苦手で学校に行きたくない子がいたり、他にも、体の感覚がなんだか不愉快(たとえば、常になんとなく体がチクチクしているような感じがあってじっと座っていられないとか、季節の変わり目には気圧の変化で体調が整わないとか)だったりする子もいます。子どもはどんな不快感、困り感があるかをうまく表現できないため、周囲はなかなか理解できないかもしれません。学校としてもいろいろ考え対応はしているのですが、すべての原因を解明するのはとても難しいこと。ですから原因を探るよりは『今はここがうまくいかないからどうするか』と、その部分を一つずつ切り取って、都度対応しています」(飛田給小学校校長 山中先生)
これは家庭でも参考になるかもしれません。根本的な解決を求めがちですが、子どもが今、何に困っているかを把握し、一つずつ考えていくことの積み重ねが、結果としてよりよいサポートになっていくのでしょう。
小学校入学に向けた「就学支援シート」
調布市には、小学校入学前に作成する「就学支援シート」を活用し、入学時に子どもの特性はある程度理解される仕組みがあります。学校ではシートに記入されている内容を見ながら、通級の利用が必要なのか、他にどのような支援が必要なのかを検討し、個別の教育支援計画、個別指導計画を作ります。それを元に夏休みの面談などで担任の先生が保護者と共に支援の方向性を確認していきます。
「就学支援シート」は、通っている保育園・幼稚園、子ども発達センターに通っている場合は、発達センターで書いてもらうことができます(半分は保護者が記入)。
同じ悩みを抱える仲間からの情報は大事
読み書きや計算に困難さを抱える子どもは「いくら頑張ってもできない」という辛い経験を重ねるうちに、学校生活や学習面での自信を失ってしまうことが多いもの。親も本人も将来を心配に感じたり、不安になったりすることもあります。
発達障害などで悩む保護者も多数集う「調布心身障害児・者親の会」の会長・進藤美左さんは「わが子と同じような子が、将来どんな大人になっていくのかを知ることはとても大事」と話します。
「読み書きの困り感に限らず、学校生活ではいろいろな困難さ・生きづらさを抱えているお子さんが少なくありません。小中学校では目先の学力だけで判断するのではなく、その子にとってよりよい未来の為の手段や選択肢を知ることも大切だと思います。たとえば最近では高校以上の進学先も実に多様化していて、可能性は広がっています」(進藤さん)
少し先の見通しが立つだけでも、気持ちが楽になるかもしれませんね。
「まったく同じではなくても似たような特性を持つお子さん、先輩ママが地域にいるかもしれません。そんな先輩に出会い、将来を想像できることで、本人も保護者も安心することがあります。少数派ではあっても、同じような境遇の人達が集うコミュニティはあります。調布市では、私たちの親の会にも、たくさんの先輩や仲間たちがいますので、きっと何かの参考になるかもしれないと思います」(進藤さん)
NPO法人調布心身障害児・者親の会は、通常の学級に通っているお子さんの保護者も多く参加しており、先輩の体験談を聞く懇談会や、発達や進路に関する学習会を開くなど、活動が盛ん。情報はとても具体的で「地域や学校の情報」「通級を使ってみてどうだったか」など体験に基づく情報が得られるのもありがたいところです。
「認知の特徴によって読み書き・学習に困り感があるお子さんにとって最も必要なのは、読み書きが苦手だったり、計算が苦手だったりすることは『子どもの努力不足ではない』と親も本人も理解し、『大変だったんだね』『あなたは十分頑張っているよ』と、受け止めてもらうことではないでしょうか。そして、どう対応したらいいか、本人が楽になるためにはどんな方法があるかを学校や関係機関に相談し、似たような仲間ともつながって、親子で孤立しないことが大切ではないかと思います」(進藤さん)
各機関詳細
各機関のリンク集です。各機関の詳細は、リンク先をご覧いただき、ぜひお役立てください。
・NPO法人調布心身障害児・者親の会
・調布市子ども家庭支援センターすこやか
・調布市子ども発達センター