PTAというと「大変そう」とか「そもそも要らないのでは」という声が多く聞こえてきますが、各地でPTA改革のムーブメントか起きている中、ここ調布にも思い切って改革に乗り出した学校があります。昨年、地元企業の協力を得てアプリを導入し話題となった調布市立上ノ原小学校PTA。手探り状態でスタートし、過渡期の1年を駆け抜けてきた皆さんにお話をうかがいました。
マンモス校のPTA運営を支える人々
コサイト 昨年PTA活動にアプリを導入し、必要に応じて参加者を募集するエントリー制を採用した際には複数のメディアに取り上げられましたね。コサイト読者は調布周辺の子育て世代が多いので、身近な出来事として「将来うちの子の学校でも…」と興味を持っている方も多いと思います。
まずは簡単に自己紹介をお願いします!
遠藤 PTA副会長の遠藤晃弘です。アプリを開発してくれた地元企業OpenDNAの安東さんとは小中学校時代の同級生です。上ノ原小学校PTAには副会長が4人いて、今日は代表して副会長3人で来ました。
須藤 PTA副会長の須藤伸子です。2021年度、2022年度と続けて本部役員を務めています。子どもが4人いて、上の子のときと今とではPTAの在り方も世間の風潮もだいぶ変わってきたなぁと感じています。
有馬 PTA副会長の有馬美穂です。私は今回初めて役員になったので以前のことは詳しく知らないのですが、だからこそ「まあ、やってみよう」と前向きに取り組めているのかもしれません。
安東 安東裕二です。遠藤さんの元同級生で、子どもが同じ学校に通っている縁もあって今回アプリ開発の面で協力させていただきました。
コサイト 役員の皆さんは立候補する前からの知り合いですか?
須藤 いえいえ、友達同士で立候補したわけではなく、最初は面識もありませんでしたし子どもの学年もバラバラです。
コサイト そうなのですね~。PTAへの加入は任意だそうですが加入率は?
有馬 現在は全世帯の約8割が加入しています。いわゆるマンモス校で児童数が900名を超えるので、PTA組織も大規模です。加入は任意ですが、未加入家庭の子どもが不利益を受けることはなく、学校のすべての子どもたちのために活動しています。
保護者の負担を減らし自発参加型へ
コサイト 昨年のアプリ導入が話題になりましたが、いきなり「さあ、アプリで改革を!」となったわけではないですよね?
須藤 まず2021年度に、子どもの在学中一人につき1回は役員や専門部員など大きな役をやらなければならないというルールをなくし、行事の手伝いや通学時の見守り当番「旗振り」などの活動も、すべて挙手制でボランティア参加者を募集するようにしました。また、それまではクラスごとに、保護者の懇親会や朝の読み聞かせ当番の調整などを行う「学級代表」を決めていたのですが、これもなくなりました。
コサイト それは大きな変化ですね。どう進めていったのでしょう?
遠藤 まずは校長先生や副校長先生に、PTA運営の厳しい状況(役員の立候補者が少ないなど)について相談し、学級代表の廃止など保護者の負担軽減策を検討しました。また、これまでの半ば強制的な係決めの方法に対する疑問や不満の声が高まってきたことを受け、全面的に体制を見直すことに。その後2021年秋の臨時総会を経て学級代表や強制的な係決めは廃止され、自発参加型の活動スタイルへと変わりました。
コサイト 思い切って先生方に相談して、そこから突破口が開けたわけですね。役員決めの大変さは他の学校でもよく耳にします。
須藤 うちは子どもが4人いて、上の子の頃には役員決めのための推薦制度がありました。誰かを推薦しなければ自分が互選会に召集されるというもので、誰が推薦したのかと疑心暗鬼になったり、くじ引きで役を引いてしまった方が涙ながらに辞退の理由を話すのを見ていたたまれない気持ちになったりと、つらい思いをした人もいたと思います。
コサイト 役員決めの時期は、どこも大変だと思います…(しみじみ)。
遠藤 2022年度からは「できることを、できるときに、無理のない範囲で」をモットーに、自発参加型に切り替えました。5月には安東さんの会社が作ってくれたPTA運用アプリ「Hi!(ハイ)」を導入。現在はこのアプリで必要に応じて「旗振り」など各種活動のボランティア参加者を募集し、PTA本部からのお知らせも随時配信しています。
元同級生がタッグを組んでアプリ誕生!
コサイト アプリの仕様などはどうやって決めていったのでしょう? 開発はいつ頃から?
安東 実はコロナ禍の初期の頃から個人的に相談を受けていました。私の会社が「調布市コロナ情報」というアプリを開発したのを知った遠藤さんから「PTAのアプリもあったらいいよね?」と。改まったオファーがあったわけでもなく、最初は本当に使ってもらえるか分かりませんでしたが(笑)。
コサイト ええ~! そんな感じだったのですね。
遠藤 小中学校時代の同級生で気心知れた仲ですから、たわいのない会話の中でお互いの考え方なども共有できていました。学校行事などで顔を合わせたときにアプリの大まかなイメージを伝えて、技術面はすべて安東さんにおまかせしました。
コサイト 元同級生の安東さんと遠藤さんがこのタイミングで再会していなければ…と思うと、なんだか運命的! ところで、実際にはどのように「導入」されたのでしょう?
有馬 アプリができてから、まずは役員が1カ月くらい触ってみて、6月にはPTA全体に周知して使い始めました。問題があればその都度修正していくという方針で運用を始め、機能追加や改良のリクエストはPTA本部でとりまとめて安東さんに伝えました。
須藤 ボランティア活動への応募はアプリからのみ受け付けて、PTA本部からのお知らせも基本的にはアプリで配信しているので、ペーパーレス化が進み役員の作業負担もだいぶ軽減されました。
挙手制のボランティアで見えてきた課題
コサイト かつての当番や係がなくなり、その都度ボランティア参加者を募集しているとのこと。具体的にはどんな活動がありますか?
有馬 アプリができて最初に募集したのは、学校の備品購入にあてるベルマークの集計と、PTA活動のデジタル化推進に関わるICTアドバイザーです。通学時の児童の見守り活動「旗振り」や行事の手伝いもアプリで都度募集しています。
コサイト 応募状況はどうですか?
有馬 ベルマーク集計やICTアドバイザーは順調に集まったのですが、「旗振り」は1学期にはそれなりに応募があったものの2学期以降は減ってしまいました。配置場所や実施頻度の見直しが今後の検討課題となっています。
遠藤 以前はかなりの人数を半ば強制的に配置していたので、挙手制にしたら担い手が減ることは予想していました。
コサイト 人が集まらなかった場合どうなりますか?
遠藤 1回目で集まらなかったら再募集、それでも一人も集まらなければ中止になります。
コサイト 無理強いはしないということですね。
「自由=何もしなくていい」ではない
遠藤 「挙手制にしたら担い手が減った」という事実。これは私たち保護者が試されているとも言えるでしょう。参加は自由とはいえ「何もしなくていい」のでもないはず。自由だからこそ、それぞれが自ら考えて行動する必要があると思うんです。
有馬 アプリでリアルタイムの応募状況が分かるので「人が足りないなら私がやろう」と手を挙げてくれる人が増えるといいのですが…。アプリ導入で情報が可視化されたことにより、今後の課題も見えやすくなりました。
コサイト 学校行事の手伝いはどんな感じですか?
須藤 スポーツ大会や音楽会の手伝いは、学校や子どもの様子を見ることができるので率先して手を挙げてくれる方がいます。行事によっては、他の学年の様子も知ることができて良かったという声もあります。
コサイト 子どもたちや学校のためにもなるし自分も楽しい!というわけですね。
地域で育つ子どもたちのために
安東 挙手制になってなかなか手が挙がらないのは、今の選択肢の中には率先してやりたいことがないから、という可能性もありますよね。保護者が発案して、それぞれの得意なことやクリエイティビティを発揮できる活動があったら手を挙げる人がいるかもしれません。たとえば、私が今なんとなく考えているのは不登校に関する取り組み。保護者、学校、地域がそれぞれの力を出し合い、連携して何かできそうです。
遠藤 調布市では2023年度から順次「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」(※)が導入されます。「地域で育つ子どもたちのために」というムードが高まることを期待しているのですが…。現在のPTA活動の枠組みの中でも、1年に1回でも6年間に1回でもいいので「子どもたちのためにやってみよう!」という気持ちが生まれるような、そんな土壌をつくっていきたいですね。
インタビュー後編ではアプリに込めた思いや、これからPTA改革を考えている方の参考になる経験談も! ぜひ続けてご覧ください。
取材会場 株式会社OpenDNA https://open-dna.jp
撮影 赤石雅紀
写真左から 須藤伸子さん 遠藤晃弘さん 有馬美穂さん(調布市立上ノ原小学校PTA 2022年度役員) 右:安東裕二さん(株式会社OpenDNA代表取締役)