京王線の西調布駅を降りて北方向、商店街を抜けて旧甲州街道を渡り、その先の甲州街道沿いに立つ「調布市青少年ステーションCAPS」をご存知ですか? 中学高校生のための「児童館」として13年前に調布市によって設立。「NPO法人ちょうふこどもネット」が運営している施設です。
都内でもまだ数件しかない「中高生のための児童館」。いったいどんな人たちがどんな風に子どもたちと関わっているのでしょう?
館長の平澤和哉さん、副館長の吉田悟朗さんとクラフト担当の鵜生川恵さんにお話をうかがいました。
親でも先生でもない「地域の大人」が寄り添うということ
コサイト 青少年ステーションCAPSは13年目とのことですね。ここを「卒業」した子どもたちは何人ぐらいですか。
平澤 13000人ほどになります。
コサイト 毎年1000人ぐらいずつ卒業している計算ですね。
平澤 そうですね〜。卒業した子たちが、たとえば二十歳になったからと訪ねて来てくれるのが、本当に嬉しいです。覚えていてくれたんだなって。
コサイト みなさんは親でも先生でもない、地域にいて自分のことをわかってくれている大人、という存在なのかもしれないですね。館長の平澤さんは、どのような経緯でここに関わるようになったのですか?
平澤 実はもともと小児科医になりたいと思っていたんですが、いろいろあって断念しまして…。それでも医療系の仕事をと理学療法士を目指していたのです。そんなとき、ここの仕事に誘われました。もともと子どもと関わる仕事がしたいと思っていたので、これはやってみるしかないと。
コサイト 子どもつながりとはいえ、医療とは少し畑が違いますね。ご苦労されたのでは?
平澤 当時はまだ都内に数件しかこのような施設はありませんでしたから、スタッフがみな何をやっていいのかわからないような状態でした。そこで私はいつも利用者と話し、彼らが何を求めているのか、何をやりたいのかという意見をメモして歩いていました(笑)。
コサイト ほぼ手探り状態ですね?
平澤 そうなんです。だから、とにかく話したことをメモして、少しでも事業にいかそうと必死でした。しばらくして軌道に乗ってきましたが…
吉田 私がここに入ったのは8年ほど前でが、すでに事業の形はできていましたよ。
平澤 設立当初のスタッフに、杉並区の施設で働いていた経験がある人がいましたので、そこでの活動経験をCAPSにも取り入れました。たとえば、利用者へのちょっとした声がけのコツなどです。CAPSではバンドの練習用スタジオやダンススタジオ、パソコン(館内専用)の貸し出しをしています。そんな貸し出しのやりとりのときも、必ずひと声かけるというようなことです。
コサイト ただ貸すだけではなく、どう関わるかが大事なんですね。
▲CAPS内にあるダンススタジオ。ドアのペイントがいい感じ。
平澤 そうです!だからここのスタッフは、利用者がいる時間帯はできるだけ事務所にいないようにしよう、という意識でいます(笑)。ロビーなどに出て利用者と一緒に遊ぶなど関わることが仕事なんです。
コサイト さりげなく子どもに寄り添う…感じでしょうか?
平澤 そうだと思います。私自身すごく印象に残っていることがあります。まだ開設間もない頃ですが、ある中学生の子が学校で友だちとけんかしたらしいのです。ここへ来てしばらくは笑顔だったのですが、しばらくすると泣き始めてしまいました。副館長は、隅の方で座り込んで泣いている子の隣に座りました。でも、とくに何も話しかけないんです。ただ座っていただけなのですが、しばらくしてその子が帰るときには、また笑顔に戻っていました。
コサイト 何も話しかけず、横に座っていただけで?
平澤 ただそこにいるだけ、ということが実はすごく大事なんです。
コサイト わ〜、ついあれこれ聞いてしまいそうですけれど。
平澤 そのときに「時間」が大事だと知りました。友だちとけんかして、きっと少し興奮している状態だったと思います。そんなときに何も言わず近くにいてくれる人がいて、自分の中で整理がついたときにぽつりと話し始めたりするんです。
コサイト その経験が、平澤さんの原点になっているということですね。
平澤 そうだと思います。
やりたいことができる、中高生の居場所
コサイト ここのスタッフさんには、それぞれ分担があるとのことですが…副館長の吉田さんはネームプレートに「英語」と書いてありますね。英語がペラペラなんですか?
吉田 いや、そういうことではありません(笑)。でも最近は勉強を教えてほしいというリクエストが増えてきました。ここの卒業生から不要になった参考書を譲ってもらったものもありますし、受験案内は毎年新しいものを購入しています。
コサイト 親でもない、先生でもない、塾の先生でもない頼れる大人が近くにいるってありがたいことですね〜。そして鵜生川さんはまだお若いですよね。
鵜生川 大学を出て4年目です。もともと教師になりたかったのですが、採用試験では残念な結果になってしまいました。あらためて、このまま先生になっても子どもとの接し方など具体的な経験が足りないと思い、大学のゼミの先生に「児童館で働きたい」と相談したのです。そうしたらここを紹介してくださったのです。
コサイト かなりラッキーな展開ですね!クラフト担当とのことですが、具体的にどんなことをしているのでしょう。
鵜生川 利用者がものづくりをするときの提案やサポートをしています。たとえば文化祭でファッションショーをやるからと、クラフト専用室にあるミシンや作業台を使ったり。砂を吹きかけることでガラスに彫刻ができる「サンドブラスト」という珍しい機械もあるんですよ。
コサイト なぜまた珍しい「サンドブラスト」の機械が入っているのですか?
平澤 この施設がオープンするときに、調布市の中高生による準備委員会を立ち上げ、どんな施設にするかを話し合いました。その席で「サンドブラスト」の機械を導入したいという希望があったようです。
コサイト その要望がかなえられたのですね。
鵜生川 母の日にコップを買って来てそこに装飾をしてプレゼントしている子もいます。オリジナルのものができるので、嬉しいですよね。いつも思うのですが、中高生のアイデアってすごいですよ。発想が自由で豊かなんです。
コサイト 学校では自由にあれこれできないときもありますね。
吉田 当然ですが学校は授業があって、自由がないと感じる場面も多いかもしれません。だからこそ、少し自由なこの場所を「居心地がいい」と感じるのだと思います。
中高生にとって、居心地がいいと感じられる居場所とはどんなところなのか、インタビューしながら考えさせられました。後編では、13年を経てさらに進化しようとしているCAPSの取り組み、そして私たち地域の大人がどう関わっていくかという話題で盛り上がります。どうぞお楽しみに!
写真右から 平澤和哉さん(館長)、吉田悟朗さん(副館長)、鵜生川恵さん(クラフト担当)