調布市内には、11の児童館があります。赤ちゃんが生まれてすぐに利用できるのが、児童館の「子育てひろば」。赤ちゃんから幼児までが楽しく遊んだり、相談員さんに悩み事を聞いてもらったりできる場として知られていますね。
午後になると小学生が遊びに来たり、ときどき「おまつり」が開催されたり、働く親の強い味方「学童クラブ」も併設されています。
調布市は児童館が設立されて50年。時代とともにあり方も少しずつ変わっています。そこで今回は富士見児童館へお邪魔し、つつじケ丘児童館の猪股久美子館長と、富士見児童館の大川貴子館長のお二人にお話を伺いました。
コサイト 4月の新入学を前にあらためて「児童館」がどんな場所なのか、気になっている保護者も多いようです。今日は館長のお二人に「児童館とはどのようなところなのか」をお聞きしたいと思います。まずは猪股久美子さん、自己紹介をお願いします。
猪股 つつじケ丘児童館の館長をしています。大学では社会福祉を学び、その後ずっと児童福祉の世界で仕事をしてきています。つつじケ丘児童館に異動してきたのは昨年の4月。以前は、市内あちこちですが東部児童館は3回、国領児童館には2回行きまして、2回目は9年間もいました。だから小学校の入学式に出席して出会った子と、中学校の卒業式でまた会えたりしました(笑)。
コサイト 地域の子どもたちの成長を見守ることができるお仕事ですね!続いて大川貴子さん、お願いします。
大川 私は短大卒業後、幼稚園教諭として働いていました。何となく「違う」という感覚があって、調布市の児童館職員に応募したという経緯があります。児童館で働き始めるまで半年ほど時間があったので、保育園でアルバイトをしました。そこで0歳児の保育に携わる機会をいただき、保育の基本を学ばせてもらったと思っています。調布市内の児童館はスタートが国領で東部にも行きました…いつも猪股さんの後を追いかけるように異動しています。いつも猪股さんからカギを受け取っているような(笑)
猪股 そういえばそうだったわね(笑)
大川 そして富士見児童館にやってきて2年、というわけです(笑)。
児童館ってどんなところ?
コサイト 児童館にはいろいろな役割がありますね。
猪股 児童館には「子育てひろば事業」「学童クラブ事業」と「児童館事業」という3つの大きな柱があります。「子育てひろば」では、妊婦さんから未就学の子どもとその親が集い、楽しく過ごしています。親子で児童館に来て遊んで、ママ同士がおしゃべりしたり、悩みを聞いてもらったり。自分の子どもより少し大きな子の様子をみて「あと2カ月すればうちもああなるのかな」などと先を見通すこともできたり。
コサイト 調布市は「子育てひろば」の活動が盛んですから、「児童館の子育てひろばに通った」ママは多いと思います。でも児童館は乳幼児期だけではなく、小学生もやって来ますね。
猪股 小学生から18歳までの子どもが自由に来て遊ぶことができる施設でもありますからね。
コサイト 各児童館発行の「児童館だより」を見ると、毎月たくさんのイベントがあって充実していますよね。工作だったり、けん玉大会だったり、サッカーだったり…。
猪股 私たちは子どもたちの育ちを応援したいという思いから、さまざまな企画を提供しています。自由参加のもの、申し込み制のものなど本当に盛りだくさんです。また、児童館を利用している子どもたち有志の組織「児童館メンバーズ」というものもあります。メンバーズの子どもたちが「こんなことやりたい」と意見を出し、スタッフと一緒に考える会議を毎月1回開催しています。たとえば各館の「児童館まつり」も、メンバーズの子どもたちが中心になって運営しています。
コサイト 子どもたちの自主的な活動なのですね。そして学童クラブもあります。
猪股 学童クラブ事業は、市内11の児童館すべてに併設されています。学童クラブ単体で運営しているところ(※1)との違いは、児童館には学童クラブ以外の子どもたちも遊びに来ること。そういう意味では、オープンな学童クラブだと言えます。
大川 ここは学童クラブの部屋なのですが、学童クラブの子どもたちはここへ来てランドセルを置くとすぐに別の部屋や庭に飛び出して行ってしまうので、いつもガラガラ(笑)。
コサイト 児童館は学童を利用している子もしていない子も、一緒に遊べるんですね。
大川 それに、学童クラブに通っていると職員と顔なじみにもなりますから、学童クラブに来なくなっても、気兼ねなく児童館に遊びに来やすいみたいですね。
※1 調布市の学童クラブは、児童館併設型以外に19箇所あり、それぞれ民間法人が運営しています。
ニックネームで呼び合う意味
コサイト そういえば…実はうちの娘も児童館の学童クラブにお世話になっていたのですが、娘がスタッフの皆さんのことをニックネームで呼んでいたので驚いたものです。すごく親しみを感じたというか…。
大川 実は、ほぼ全国どこの児童館でも、同じようにニックネームで呼び合っているのです。ちなみに私は「おーちゃん」と呼ばれています。まあ本当は怖い人だと思われているんでしょうけど(笑)。
コサイト あはは(汗)、そんな…。
猪股 私は「くうちゃん」です。
大川 保護者の方たちの中には「先生なのに◯◯ちゃんと呼ぶのは違和感がある」とおっしゃる方もいらっしゃいますけれど。
コサイト 確かに、そういう印象もあるかもしれないですね。
大川 日頃、子どもたちは評価されることの多い学校という場で頑張っています。児童館に来たときぐらいは、そういうことがないようにしたいと思っているのです。でも、だからといって「なあなあ」な関係というわけではありませんよ。たとえば、言葉遣いはちゃんと指導しています。叱られることだってありますけれど、でも甘えることもできるという側面もあるのが、児童館における職員と子どもたちとの関係です。私たちは先生ではありませんから。子どもと一緒に育ち、支援する仲間なのです。
「やりたい」がわからない子どもたち
コサイト 年上の人はきちんと敬い、礼儀は守る。でも先生ではなくて一緒に過ごす仲間だという考え方が根底にある…児童館は子どもたちの心が安らぐ場でもあるということですね。
猪股 学校や習い事は、どうしても上から「やりなさい」と言われたことをやることが多いと思います。だから児童館では「自分がやりたいことが実現できる場」でありたいと考えています。たとえばケーキを作ってみたいという子がいれば、私たちは「じゃあ、やってみようか」と一緒に考えます。工作でも何でも同じ。子どもが「やりたい」と言うことに寄り添える場でありたいです。
コサイト 子どもの「やりたい」ができる場は、今や少ないのかもしれないですね。
猪股 そう感じています。ただ、気になっているのは「やりたい」ことが見つけられない子どもが増えているという現実です。やりたいことがある子は話が早いのですが。
コサイト 何をして遊んだらいいのかがわからないと?
猪股 「遊ぼう」と言われて「じゃあ何して遊ぶ?」と返すと「わからない」と答える子どもが増えた印象があります。何となく友だちと遊びたいけれど、何かしたいけれど、何をしていいのかわからないのです。中には遊びを提案しても「やりたくない」と言う子もいます。
コサイト やりたいことはわからず、提案されたことは「やりたくない」と…。
猪股 「やってみないとわからないでしょ、やってみようよ」と誘っていますけれどね。もしかしたら、いろいろな楽しい経験、体験が少ないのではないかなと思います。だからこそ、児童館では楽しいことをたくさん提供していきたい。もちろん押し付けではなく、です。それが児童館の役割だと思っています。スタッフもスポーツや工作などそれぞれが得意を持っています。いろいろなスタッフが寄り添うことで、子どもたちの「楽しい」体験を増やしていけたらいいなと思っています。
「やりたい」がわからない子どもたちが増えている…ドキッとしますね。勉強も習い事も大切なことをたくさん学べるけれど、子ども時代の「遊び」もとても大切。インタビュー後編では「遊び」の重要性についてじっくりと聞いています。ぜひお読みください。
(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)
調布市立富士見児童館の大川貴子館長(左)と、調布市立つつじケ丘児童館の猪股久美子館長(右)