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小学校入学前までに「知りたい」と思える好奇心を育てたい。でもどうやって?
特別なことをしなくても、日々の暮らしの中でできることはあります。「子どもと歩く 自然と遊ぶ その1」では、パイオニアキッズ菊野台園の子どもたちが、野川の環境や生き物に夢中で、探究心旺盛な様子をご紹介しました。
今回はその続きです。子どもたちの一行は野川を後にして、いよいよ目的地の「かに山」を目指します。
野川に水が流れ込む用水路をたどって歩き、畑が多いエリアに出ました。歩きながら、子どもたちはいろいろなものに興味を示します。
子ども「(畑を指差し)あ!オクラができているよ!」
先生「ええ〜?オクラってこんな風にできるのね〜初めて知った!」
子ども「あれは何かなあ」
先生「キウイかも。あのおじさんに聞いてみようか」
子ども「うん!」
歩きながらの何気ない会話ですが、先生たちの対応に「何か教えよう」という気負いはありません。いえ、むしろ一緒に楽しんでいるだけのような…?(写真にはありませんが、畑で作業中の男性は、子どもたちや先生からの質問に快く答えてくださいました。やはりキウイの棚でした)。
畑の中に小さい田んぼがあります。これはコサイトのコラムでも紹介された「田んぼの学校」が管理している場所。あと少しで稲刈りという時期だったので、ネットがかけられ、田植えをした親子が作ったという表情豊かな「かかし」が、黄金色に輝く稲穂を守っています。
田んぼの稲も、畑の野菜も、用水路の水を使って育てています。いろんな生き物が見えました。カワニナ発見!
楽しいことは、どんどん知りたくなる
同行の研究者・光橋翠さんが指さしているのは、柏野小学校前にある歩道が一部ガラス張りになっている部分。
翠さん「コサイトさん、これ何かわかりますか?」
編集部「ええ〜と…下水ではなくて…」
翠さん「実はこの下を用水路の水が通っているんですよ」
田畑があるエリアから佐須街道を渡って来た私たちですが、用水路は道路の下にあるトンネルを通っているのですね。
調布市が設置した看板には、深大寺・佐須の地域資源について詳しい説明がありました。佐須のロケーションや、湧水が湧き出る仕組みがひと目でわかります。
うーん、大人は理解できるけれど…こんな看板に年長さんの子どもたちにわかるのかな?
「ここがかに山で、ここが湧き水が湧き出しているところ。この水が用水路の水になっているんだよね。湧き水は雨が降って、地面に染み込んで、長い時間をかけて湧き出してくるんだよね」(翠さん)
子どもたちは口々に、看板の絵を指さしながら、
「このあいだ行ったところだ!」
「ここに降った雨はここから出てきて、こっちに降った水はココを通って、野川に流れていくんだね」
興味を持ち、理解して確かな知識になっていることに驚きます。私たちはつい「まだこの子には難しい」と考えがちですが、それは大人の勝手な思い込みなのかもしれません。
次々と発見!
あと少しで目的地のかに山です。その手前に広がる田んぼの持ち主さんから「君たちなら、田んぼの真ん中の道を通ってもいいよ」とお許しが出ているそうで、この日も特別に歩かせてもらいました。丁寧に育てられた稲。子どもたちはやさしく手を触れています。先生が注意したわけでもないのに、どの子もやさしくそっと。
子ども「ねえねえ、中身がないのがある」
先生「すずめさんが食べちゃったのかなあ」
子ども「きっとそうだよ」
子ども「あれ、田んぼなのに水がない!」
先生「ほんとだ!そろそろ稲刈りだからかな」(先生)
佐須を流れる湧き水は、このエリアの田畑を潤し、里山の風景を残してくれています。調布っていいな。
さあ、いよいよ「かに山」を登る道に入ります。調布市が管理している「かに山キャンプ場」を擁する小さな丘です。
ずっと歩いてきた子どもたちはここで荷物を置いて自由に駆け回って遊びました。鬼ごっこをしたり、急坂を登ったり下りたり。
よく見るとたくさんのどんぐりや折れた枝、木の実、コオロギやバッタなどの虫、枯葉の下には小さなカタツムリも。
持参した虫眼鏡や双眼鏡、先生に借りたカメラなどを手に、見つけたものを「観察」していました。
この日は、最後に私たちを湧き水の水源に案内してくれました。野草園の少し奥、囲いがされて守られている「水源」は、ちょっと風情はなかったけれど、確かに清らかな水が湧き出していました。
子どもの「見つけた!」を発表
園に戻ってお昼ご飯を食べたら、子どもたちと先生が集まって「ふりかえり」の時間です。
「今日もいろんなものを見つけましたね。みんなが見つけた秋を、発表してください」(園長先生)
一人ずつ、手を上げて発表します。
子ども「コオロギ!」
先生「いたよね〜、大きかったよね」
子ども「小さいバッタもいたよ」
先生「そうそう、いろんな種類がいたよね」
子ども「どんぐりと枯葉!」
先生「うんうん、何色だった?」
子ども「ええとね、茶色!」
先生「た〜くさん落ちていて楽しかったね」
子ども「桜の葉っぱも落ちていたよ」
先生「よく気づいたね。どうして落ちたんだろう?」
子ども「あのね、風が吹いたから!」
先生「昨日は風が強かったものね」
子ども「コオロギをつかまえたよ」
先生「つかまえたコオロギは?」
子ども「にがしたよ」
先生「返してあげたんだね」
子ども「あとね、田んぼにね、かかしがいたよ」
先生「おもしろかったよね。でも、何のためにいるのかなあ」
子ども「すずめがお米を食べに来ないように!」
子どもの「見つけた」が次々と飛び出します。1時間ほど誰も飽きることなく、お互いの発表にもすごく関心を持ち、耳を傾けている姿が印象的でした。
好奇心を育てる秘密のテクニック?
子どもたちの「やりたい」「知りたい」気持ちを自然と伸ばせているのは、もしかしたら「秘密のテクニック」があるのでは?先生たちに聞いてみると…。
「いいえ、特別なことはしていませんよ(笑)。私自身が気づいたときに『これなんだろう』と発信すると、子どもたちが『なに?』と興味を持ってくれて『なんだろうね。図鑑で見てみよう』となる…その繰り返しです」(きょうこ先生)
ものすごく自然ですね。
「調べるとそこには私も知らないことが書いてあって、すごいね〜なんて感動したりして(笑)」(きょうこ先生)
先生とはいえ、何でも知っているわけではないですものね。
「興味関心って人それぞれですよね。私は自然や生き物にそれほど詳しくないから、詳しい人にすぐに頼っちゃいます。大人がほかの先生に聞いている様子を見ているからか『わからなければ聞いていいんだ』というムードが、子どもたちの間にも自然と生まれます」(かなみ先生)
生き物に詳しい、さち先生は頼られるほうでしょうか?
「いえいえ、私だって知らないこともありますから、すぐに聞きますよ(笑)。保育者として自分の知っていることを教えようとして先頭に立っているわけではありません。私自身がパイオニアキッズの異年齢の仲間の一人という感覚です」(さち先生)
親子で出かけるときも、そんな気持ちで子どもと接することができたらいいですね。
「子どもたちはいろんなものを見つけます。だから私もみんなと一緒に出かけて、いろいろなものを探したい。保育者としてというより、私は仲間の一人として楽しみ、子どもたちの言葉に耳を傾けているのです」(さち先生)
何だろう?一緒に調べてみようね
「子どもの言葉に耳を傾け、共感し、調べてみる。子どもが何か言ったら『それ何?』ではなく『何だろうね?一緒に調べてみよう』と語りかけます。私たちの園では、研修でニュージーランドの教育プログラム『テファリキ(※)』を学んでいます。ニュージーランドの教育では、先生は子どもの『近くに行ってささやく』というやり方を徹底していて、私たちの園でもその手法を取り入れています」(きょうこ先生)
※ニュージーランドの教育省から正式に許可を得て、パイオニアキッズの保育に活用している、ナショナルカリキュラム。
子どもたちがたくさんいる環境ですから、どうしても先生の声は大きくなりそうなものですけれど…?
「そう思いますよね。でも実際にやってみると、むしろ近くに行ってささやく方が伝わると実感しています。声のかけ方をちょっと工夫するだけで、子どもが興味を持つきっかけを作ることができるなと」(かなみ先生)
実は、すごく「伝わる」のですね。
「そういう関係が築かれると、子どもはいろんなことを教えてくれるようになります。あるとき、野鳥に興味がある子どもが『ぼくが一生懸命ゴミを拾う理由は何だと思う?それはね、鳥をもっとたくさん見たいからなんだ』と教えてくれました」(さよこ先生)
野鳥が暮らしやすい環境を守るために、ゴミを拾っているのですね。
「そんな子どものつぶやきを大切にしています。他の子どもたちには『今日ね、〇〇ちゃんがこんなことを言っていたよ』と伝えることがあります。そこからまた話が広がることも。自分が発した言葉がみんなの心に響き、役に立っていると感じてほしい。そうすれば、自然に学びも広がるのではないかと思います」(さよこ先生)
さて、みなさんのご家庭ではこのような子どもとの対話をどこまで実践できるでしょう。子どもが何か話しかけてきても、他愛のないことだと、つい「後でね」などと終わらせてはいませんか。忙しい日々、いつもできるとは限りませんが、時々は子どもの言葉に耳を傾け、一緒に考えてみましょう。
それは「子どもの能力を伸ばすため」のようで、実は子どもがいるからこそ楽しめる、大人にとっても貴重な時間。遠出をしなくても、私たちが暮らす街の近くにある自然を、一日ゆっくり楽しんでみませんか。(撮影 赤石雅紀 取材・文 竹中裕子)
パイオニアキッズ菊野台園(ぱいおにあきっずきくのだいえん) 調布市菊野台の住宅街に立つ、認可保育園。乳児期から ニュージーランドの教育省から正式に許可を得て、ナショナルカリキュラム「テ・ファリキ」を活用し、自らの意志で遊びを決めてそれぞれの部屋へ行く「コーナー保育」や「異年齢保育」が行われています。また、北欧で盛んな「森の幼稚園」の概念も取り入れ、積極的に戸外活動を行っています。