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いっしょに育て隊

第30回
調布市公立保育園統括園長 高野美抄さん
保育士のキモチ、保育園のこれから(後編)

2016年6月10日 公開

調布市の公立保育園を束ねる「統括園長」の高野美抄さん。ご自身も子育てをしながら働き続けたお母さんでもあります。子どもを保育園に預けながら、保育士として働くジレンマについては前編でご紹介しました。

後編では「預けて働くこと」や「保育園のこれから」についてうかがいます。

 

忙しい時は、ひと手間を抜いていい

 

コサイト 子どもを預けて働くことが当たり前の現代ですが、それでもなお「預ける」ことに罪悪感を持つ人も少なくないと言われています。また職場の事情などで、どうしても「長時間保育」になってしまうことを気にする人もいますよね。

 

高野 ええ、そこを気にする保護者の方は多いんですよ。でも、私は「長時間保育だから」というだけの理由で、親子関係に問題が起きるとは思いません。大切なのは子どもと過ごす時間。中身ですよ!

 

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コサイト 密度の問題?

 

高野 子どもと接する時間がたとえ短くても、親として愛情を注いでいることが子どもに伝われば、いわゆる「愛情不足」にはならないと思います。たとえ保育時間が短くても、家に帰ってから子どもに気持ちが向かずうまく関われないケースも考えられますから、いちがいに時間だけでは判断できません。

 

コサイト 短時間でもしっかり手をかけ愛情をかけていればいいと。でも疲れて帰宅してから、また子どものお世話をするのは大変なことです。私も子どもを保育園に預けていましたが、毎日の食事を用意するだけでヘトヘトでした。

 

高野 愛情をかけるということは、たとえば何でもママの手づくりでという意味ではありません。実は私はですね…料理が苦手なんです。

 

コサイト 高野さん、お料理苦手なんですか。

 

高野 そうなんですよ〜。だから仕事して帰宅して、食事の支度をするのはストレスフル。もちろん、食べることの基礎を養う乳幼児期はほとんど手作りで頑張りましたよ。だからこそ、たまにはお惣菜を買って来たり外食をすることもあります。たとえば調布の駅前にある調布市の子育て支援施設こどもとフラット内にある子育て交流カフェ「aona」では、夕方のメニューに「帰ったらお風呂だけセット」っていうのがあるでしょう? 

 

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コサイト はい、親と子の定食がセットになっているメニューですね。

 

高野 忙しかった一日だから、たまには外食。親子でゆっくり食事を楽しんで、帰ったらお風呂に入って寝ようねっていうコンセプトのメニューです。この「親子でゆっくり食事をする」という凝縮された時間こそが大事だと思うのです。

 

コサイト ひと手間抜いて、その分を濃密に。

 

高野 そうそう。

 

コサイト でも…保育士さん的にも、子育てはひと手間抜いていいんですね?

 

高野 そう思いますよ。私が働き始めた頃は、親がちゃんと作って食べさせることが大事だと言われていました。親が100%手をかけて当たり前の時代。その文化は今もなお受け継がれています。もちろんそれは大切なこと。でも,もう30年近く経っているわけですから。

 

コサイト 時代が違いますね。

 

高野 世の中の流れや生活は大きく変化しました。その変化に見合う「子育て観」や「方法」を見つけていけばいいのでは?

 

コサイト 上手にサービスを使っていけたらいいですよね。

 

高野 もちろん、ちゃんと手をかけている人もいらっしゃいます。つまり、お母さんが子育てを大きな負担と感じないでほしいのです。

 

コサイト 「親だから」と、すべてを背負ってしまいがちです。

 

高野 それでは辛くなってしまいます。子育ては、大きな荷物を背負うイメージではなく、私たち保育士と一緒に1人の子どもを育て、楽しみ、成長の喜びを分かち合えたらいいなと思います。共に育てる「共育て」をしていきましょう。

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コサイト 保育士は、子どもがダイナミックに育つ大切な時期に関わる大切なお仕事ですよね。

 

高野 素晴らしい仕事だと思っています。その人の人生のある時期に深く関わり、子どもの代弁者でもある…そんな仕事はそうそうないと思いますよ。

 

コサイト 中途半端な気持ちで関わることはできませんね。

 

高野 だからこそ、保育士自身は常に自分を高める努力も必要です。保育士は国家資格です。それぞれが仕事に生きがいや喜びを見出し、誇りを持って働いてほしいと願っています。

 

調布市の子育て支援

 

コサイト 子育て政策というと、「保育園の新設」「待機児童の解消」に目が行きがちですが、高野さんは調布市の子育て政策についてどう感じていますか。

 

高野 私が評価するべきではありません。ただ、都内のいろいろな市や区の人たちから、「調布市はすごいね」とよく言われます。調布市は保育園対策も精力的に進めていますが、それだけではありません。保育園に通っていない子どもたちも含め、自治体として未来ある子どもたち、子育てをどう支えていくための政策を、強い思いを持って実施しています。

 

コサイト 具体的に、どういうところが評価のポイントなのでしょう。

 

高野 保育園を利用していない子育て中の方たちに向けても多様な子育て支援サービスを行っているところですね。たとえば、国領にある「子ども家庭支援センターすこやか」や、民間と協働して「子育てカフェ」と「プレイセンターちょうふ」を作ったことに対する評価が高いです。作りたいという思いがあっても、実現させているところは少ないのではないでしょうか。

 

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コサイト そうなんですね。

 

高野 調布市は、保育園を利用していない方たちに対する支援も充実させていこうという考えが強いのです。各保育園では、家庭で子育てしている人たちが参加できる「地域交流事業」を実施しています。

 

コサイト 一般の親子が参加できる、手遊びや園庭遊びなどを楽しめる企画ですね。

 

高野 保育園は働く保護者の子どもを預かるだけではなく、いろいろな機能があっていいと思うのですよ。

 

コサイト ちょっとした相談ができたり、ママ同士がつながったり…。

 

高野 とくに公立保育園は、そういう視点を強く持つべきだと思っています。専門家がこれだけ揃っているのですから、できることはいろいろあるはず。これからは、保育園がいかに地域に貢献できるか、ということを考えていきたいと思っています。

 

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調布市では毎年のように保育園を新設しています。それでも毎年、待機児童数はなかなか減少していないのが実情です。もしかしたら、待機児童の解決には、保育園を作るだけではない、地域全体で支えていくムードや仕組みが必要なのかもしれません。

 

高野さんは、「地域のつながり作りをすることで、たとえば子どもを預け合ったり、困ったときに助け合える関係が生まれたらいいのですけれど」とも。地域全体で子育てを支えるムードが生まれるためにも、公立保育園はその拠点として大切な役割を担っていくことになるのかもしれません。

(撮影・赤石雅紀 取材・竹中裕子)

執筆者

高野美抄(たかの・みさ) 調布市子ども生活部保育課副主幹・公立保育園統括園長。短大卒業後、調布市の保育士として公立保育園に勤務。平成24年から調布市立宮ノ下保育園園長、26年から調布市立第五保育園園長を歴任し、現職。調布市に暮らして28年目の調布LOVER。1女の母。

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